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岡崎取材第2回(2006年2月10・11日)

2月10・11日に愛知県岡崎市に行ってきました。今回の訪問先は、基礎生物学研究所と分子科学研究所です。長谷部光泰教授、岡本裕巳教授、田中実助教授に会い、お話を聴いてきました。取材参加者は、立花さんと岩間くんと僕でした。

10日は、13:03東京発のぞみで名古屋に向かいました。名古屋に到着後、名鉄名古屋から名鉄に乗り換えました。特急に乗ったものの、しばらくして路線を間違えていることに気づき、ちょっと焦りましたが、なんとか神宮前まで引き返しました。それから、快速特急で東岡崎に到着しました。

かれこれして、16時半頃に最初の取材先である、基生研の長谷部先生のところにたどり着きました。長谷部先生は、植物の大進化を研究されている方で、とても落ち着いている印象がありました。生命進化のお話を、原始生命の誕生からヒトの出現まで、網羅的にしていただいたのですが、先生が少し猫背なこともあってか、どこかものすごく壮大な物語を聞いている気分になりました。立花さんは、進化の問題は時間の要素が入ってきて面白い、と言っていました。

また、動物細胞と植物細胞で決定的に異なっている構造があり、それが動物や植物の成長の仕方を決めているということを話していただきました。それは、細胞骨格の「微小管」とよばれる管状の構造です。動物(下等な植物も含む)では細胞の中に中心体という構造がある一方、(高等な)植物には中心体がなく、その代わりに、細胞壁表面に表層微小管という構造を持っています。これらの構造が、生物体全体の形を決める要因の一つになっているということです。なぜ動物と植物はそのような違いを持つに至ったのか、ということを考えるのも興味深いですね。

2時間ほどお話を聴いた後、岡本先生のところへ行きました。岡本先生は、近接場光学顕微鏡を開発されており、それを用いて、金属ナノ粒子中の電子密度分布(プラズモン)を観察しておられます。パルスレーザーの光を使って、金属のナノ構造を見てしまうことが、非常に画期的な研究です。

岡本先生は、昔の学者がかけていそうな風変わりな眼鏡をかけていらっしゃいました。議論に量子力学が関与してくる上、一般向けの記述をしたことがこれまでなかったそうで、説明に四苦八苦しておられました。それでも、立花先生の怒涛の質問に根気強く答えようとしてくださいました。

2時間ほど話を続けて、立花先生が、結局あまりよくわからなかった、とのことだったので(僕も)、翌日の午前中も伺うことになりました。21時過ぎまでお話をしたあと、永山國昭教授に夕食に連れて行ってもらいました。夕食をいただいたのは、ベーカリーレストラン サンマルクというところで、おいしい焼きたてパンが食べられるお店でした。

夕食を食べながら、永山先生と立花先生の会話に耳を傾けていると、最近の時事問題から、永山先生の研究室にいるブルガリア人の話、生物進化の話、『天皇と東大』の話、等々、話題が次から次へと移り、面白かったです。お二人とも、知的好奇心が並外れているな、と思いました。

なかでも特に面白かったのは、永山先生がした、DNAの塩基配列(シーケンス)の解読の話です。シーケンスの読み取り方法は、2003年にヒトゲノム計画が完了してからも、いっそうの効率化や低コスト化が進められていて、永山先生もその研究に携わっていらっしゃいます。

先生が開発しようとしているのは、電子顕微鏡による塩基の判別で、従来の一次元的な読み取りではなくて、二次元画像で一挙に読み取ってしまおう、というものです(具体的には、塩基に蛍光分子をつけるなど処理をする)。ひとたび画像にして取り込んでしまえば、あとはコンピュータが解析してくれるわけですから、所要時間が劇的に減ることになります。

そのような装置ができてしまえば、将来的にはなんと、私たち一人一人がもっているゲノム(生物個体のもっているDNA情報のすべて)を読むことも可能なのだそうです。そうなってしまえば、個人のIDが完全に決まってしまうんだな、と思いました(一卵性双生児は除いて)。とんでもない社会になりそうです。

加えて、先生はもう一つの有力な方法である、ナノポア(nano pore)というものについて、紹介してくれました。生き物の細胞は細胞膜という膜で覆われていますが、その膜にはチャネルといって、いろいろなイオンや分子を出し入れする通路があります。ナノポアは、このチャネルに注目している方法です。この方法では、通常の二重らせん構造をほどき、DNAを一本鎖の状態にします。そして、DNAをチャネル様分子の中に通すことで生じる電位変化から、それぞれの塩基を読み取ります。

これらの二つの方法を並べてみて、永山先生は前者はきわめて物理学的で、後者はきわめて生物学的だ、といわれました。つまり、電子顕微鏡による読み取りは、緻密で計算的である一方、チャネルを利用したナノポアは、生き物の仕組みをうまく活かしている、ということです。僕は、同じDNAを読むことでも、これだけアプローチの仕方が違ってくるんだなあ、と驚いてしまいました。

永山先生は物理学者なので、ナノポアの様な「生物学」的な方法に対して脅威を抱いているといっていました。やはり、一口に科学者といってもいろいろな気質や型があるのでしょう。前回お会いしたときにも感じたのですが、永山先生は本当に、面白いことを、面白そうに話すことができる人なんだなあ、と思いました。シンポジウム当日のパネルディスカッションでも、間違いなくその会話力が存分に発揮されることと思われます。

その夜は、岡崎第一ホテルで宿泊しました。

次の日は、朝9時から11時まで、岡本先生の実験室を見学させていただきました。金ナノ粒子を作る装置を見てから、例の近接場光学顕微鏡を見せていただきました。パルスレーザーを発生させる装置や、光学系のいろいろな部品が黒い板の上に整然と取り付けられていました。岡本先生は、装置の組み立てをすべて自分たちでやってしまうそうです。

自分たちで新しい顕微鏡を作り、世界で今までに誰も見たことがないようなものを「見る」ということは、すごく魅力的なことだと思いました。実際に顕微鏡を見せてもらうことで、なんとなく様子がわかったような気になりました。

13時半過ぎより、基生研で田中先生にお話をうかがいました。田中先生は、もともと北大にいらっしゃったらしく、2年前に基生研に移られたそうです。取材にいった前の日も、北大で修士論文の発表会があったそうで、大変お忙しいようでした。

田中先生が研究されていることは、メダカの胚発生における生殖細胞分化の分子機構です。日本人になじみがあるメダカですが、発生学には欠かせない生き物なのだそうです。ちなみに、神経学でよく用いられる生き物は、ゼブラフィッシュだそうです。

田中先生の研究では、4Dバイオイメージングの技術が取り入れられています。これにより、従来の顕微鏡のような空間分解能に加え、時間分解能がある像、つまり動画を得ることができます。このようなことが可能になったのも、近年の情報技術の発達のおかげだと、先生は言われました。画像解析のソフトウェアにしても、ますます高度なものができているそうです。

例として、先生方が撮影されたメダカ胚の発生の様子を見せていただきました。それを見てみると、たくさんの細胞が押し合い圧し合いしながら、アメーバのように「動いている」のが見えました。僕がはじめて見る映像で、けっこう衝撃的なものでした。

細胞が蛍光標識されているので、細胞運動の様子をはっきりと見ることができます。生殖細胞が動く様子は、非常にゆっくりと進行するため、普通に顕微鏡をのぞいているだけでは、止まっているように見えてしまい、観察することができません。そのため、運動の様子を見えるようにしてしまう技術というのは、相当強力なものだといえます。

田中先生は、このバイオイメージング技術を用いた研究について、役に立つかどうかは別として、自分が面白いと思うことをやっている、と話してくださいました。僕も、細胞があちこちへ動き回る様子を撮ることができたら、楽しいだろうな、と思いました。

その後、撮影装置や、遺伝子導入装置を見せていただき、メダカの飼育部屋にも案内してもらいました。田中先生の取材を15時40分くらいに終え、岡崎から帰りました。

今回の取材で三人の先生とお会いしました。取材時間が長く、なかなか大変でしたが、興味深いお話をたくさん聴くことができて、とても充実した取材だったと思います。改めて、岡崎で日々なされている研究には、「目を見張るもの」があると実感しました。

文責 岩崎陽平

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