カンボジアのバイヨン寺院
現在進行中の文化遺産保護プロジェクトは、カンボジア・アンコールトムのバイヨン寺院全体をデジタル化するための計測だ。大仏に比べ、格段に規模が大きく形状も複雑なため、より困難だそうだ。
バイヨン寺院は、塔に顔が彫られているのが特徴。「尊顔」と呼ばれ、全部で173個ある。これらすべてをモデル化する壮大なプロジェクトだ。
写真4 尊顔
写真5 尊顔データ撮影
一つの顔につき数回撮影する。また、回廊に彫られているレリーフは、当時の人々の生活を細かく描いていて、レリーフとしては珍しい。
左 写真6 撮影の風景。右 写真7 実際にモデル化されてできたCG
写真8 寺院全体のモデル化
デジタルデータ撮影には、レーザーレンジセンサ（Laser Range Sensor）（対象物体にレーザー光を当て、反射される光の到着時刻を測ることによって物体までの距離を計測するセンサ）を使っており、回廊のレリーフを、数十�儡岾屬濃�っていき、CTスキャンのように壁を輪切りにして形状をはかり、それとデジタルカメラで撮った画像と組み合わせてデジタル化した画像を作っていくのだ。写真5のような、様々な尊顔のデータを大きなスクリーンで一気に見せられたときは衝撃を受けた。しかし、その大量のデータは一つ一つ根気のいる計測作業を続けてできあがったものだ。「学問に王道なし」とはよく言ったものである。小さな作業を地道に積み重ねていくうちに、気がつかないうちに大きなことを成し遂げるのだと実感した。
写真9 測定したバイヨン寺院とプロジェクトメンバー
【技術】
●センサ
池内研では、様々なセンサを使っている。
その中に、FLRS(Flying Laser Range Sensor)という、池内研が独自に開発した巨大な物体を撮るためのセンサがある。バイヨン寺院のような大きな建造物を撮るには、空中にセンサを持って行かないと上部がとれない。そこで、センサを気球に取り付け、気球内にはヘリウムガス（風船の中身。軽くて安全な気体）を入れて地上数十メートルから撮れるセンサを作った。センサの重さは37,2�圈Ｊ�向転換はというと、地上で4方向から人がロープで引っ張るそうだ。
今回の取材日が、バイヨン寺院の調査開始の直前で、機器がカンボジアに送られていたので、デモは見ることができなかった。バイヨン寺院のデジタル化の完成が非常に楽しみである。バイヨン寺院のモデル化がすべて終われば、それは相当なビッグプロジェクトである。
●光源環境情報の重要性
上の二つの写真を見てほしい。
我々は池内先生の部屋でおもしろい絵を見せてもらった。小さな正十二面体の箱が机の上に置いてある絵、２枚。一つは、影がない。もう一つはきちんと影がある。驚いたことに、影がある方は、日常と変わらず箱が置いてあるだけなのに、影がない方は、箱が浮いて見えてしまう。どちらも同じ絵で違いは影の有無のみである。影がない方を、「光源不一致」という。つまり、現実感のある絵にするには、正しく影をつけることが重要となる。そのためには、光源の位置を正しく推定することが不可欠となる。
Ｑ．これから何をモデル化したいですか？
Ａ．（池内先生）イタリアの、１�匯擁�くらいの、ポンベイ遺跡でも計測してやろうか。（笑）
池内先生は冗談でおっしゃったが、本気でできそうな勢いを感じた。
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