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どうやって微生物を採取するか

ではどうやって熱水噴出孔の下の微生物を採取すればよいだろう。

熱水は海底から出ているが、そのさらに下となると、掘らない限りたどり着くことはできない。しかし、ダイレクトにそこにアクセスする方法論はあるものの、技術的には難しくいまだ成功していない。今まで3回ほどドリリングを試みたことはあったが、どれも失敗に終わった。掘ることができないのだ。

そこで高井さんのグループが考え出したのが、「しんかい」や無人潜水艦で実際に熱水噴出孔の近くまで行く方法である。

熱水は、海底の数km下から上がってくる。下から水が循環して上がってくる時、そのあたりのものを巻き込んでくるのではないかと高井さんは考えた。ちょうどいいことに、熱水はまわりから色々引き込んできて、いったんマグマ(700度)で反応する。つまり、酸素でおかされた生物やその痕跡などの情報がそこで燃やされて、完全にリセットしてあがってくる。あがってきた情報には、少なくとも海底下数kmの情報が乗っかってきているだろう。それを調べればいい。

しかし、海底下数kmから乗っかってくる情報量は微量である。大量にサンプルをとらないと、とても見えるものではないのに、「しんかい」は、100キログラムしか載せることができない。これでは、微生物の痕跡を見つけるのは難しく、成功の可能性は相当低い。

そこでもう一つ考えたのが、水の中から微生物を集める、という方法である。これは、微生物を付着させる装置を作って、一定期間熱水中に放置しておき、数百リットル分位の微生物を集めるというものだ。

この方法が成功した。

実際、この方法により日本近海の沖縄トラフなどで、微生物群集についての研究が一気に進んだ。

その結果、意外なことが明らかになった。予想では、どの熱水孔の下にも、過去の地球で繁殖していた微生物がたくさんいるに違いないと思われていたのだが、実際に調べてみると、小笠原や沖縄など、日本のまわりの熱水にはそのような微生物は見つからなかったのである。

考え方は間違っていたのか?

海底下からあがってくる熱水を調べれば、最古の微生物がいるに違いない、という考え方は間違っていたのだろうか。

しかし、ここで高井さんは、インド洋の熱水噴出孔を研究するチャンスを得た。

熱水噴出孔については、太平洋、大西洋での調査はかなり進んでいたが、インド洋では非常に遅れていた。欧米諸国や日本から遠く隔たっており、探査しにくかったためだ。

だが2001年、このインド洋において、深海底熱水活動域が日本の研究チームによって初めて発見される。

高井さんは、この航海には参加していなかったが、1年後インド洋の熱水噴出孔に再訪する調査を計画していた。日本近海にある熱水噴出孔は、いわゆる「プレート沈み込み帯」と呼ばれる地質学的立地条件にあるのだが、インド洋で見つかった熱水活動は中央海嶺と呼ばれる「プレート拡大域」にある。何となくインド洋のほうが有望に思えたのだ。しかしこの段階では、単なる勘でしかなかった。ともあれ、この場所に着目して、熱水噴出孔下の微生物の研究を始めた。

そしてなんと、当初の予想通りの微生物を発見したのだ。完全に、"地球だけを食べて"生きている微生物の発見である。

これこそ、地球に残っている最古の微生物の生態系だ。われわれの共通祖先に違いない。生命が生まれた当初、何度も生まれては死に、生まれては死に、を繰り返した後で、ようやくそのうちのたった一個が、我々につながる初めての進化にのってきた。すぐにいろいろなものに変わっていくポテンシャルを持った、フレキシブルな初期の生命は、いくつかが助け合って生態系を作り、我々のほうに進化してきたと思われる。

その原始地球の生態系が、このインド洋に残されていたのである。

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