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ヒトから知る

秘められた能力――「分節化」

 チームでヒトを対象とした研究をしているアブラさんにお話をうかがった。現在このチームでは ‘分節化’と言われる能力について研究している。分節化とは、連続して聞こえる音声を単語に区切って理解する能力である。そう説明して、アブラさんは私が聞いたこともない言葉を話し始めた。ウイグル語だそうである。この言葉はアブラさんには理解できるが、ウイグル語の「こんにちは」すら知らない私にとっては音の羅列にしか聞こえない。単語の区切りなどもっての他だ。しかし不思議なことに、ヒトは知らない言語を繰り返し聞いていくうちにだんだん単語の区切りがわかってくるのである。これは分節化能力によるものであると考えられている。赤ちゃんが母国語を習得するときや、大人が外国語を習得するとき、この分節化が必要となるのである。

 ではヒトがどのようにして分節化を行っているかについてだが、分節化の手がかりの1つとして、遷移確率を使っていると考えられている。遷移確率とは、簡単に言えば音の出現度合いを表すものである。例えば、「いちごを食べる。いちごが好き。いちごのジャムを作る。」という文章があったとすると、「い」から「ち」、「ち」から「ご」の遷移確率はそれぞれ1である。だが、「ご」から次の音への遷移確率は1よりもずっと低くなる。このように遷移確率は単語内では高く、単語間では低くなるため、ヒトはこの違いを基にして無意識に分節化を行っているのだろうと考えられている。そこで、この分節化が脳の中でどういった神経処理によって為されているかということを、ここでは脳波計と光トポグラフィを使って研究している。

脳波計と光トポグラフィとは?

 脳波計は文字通り脳波を計測する機械で、脳の活動の時間的変化をミリ秒単位の正確さで計ることができる。実際には、頭皮上の電位の変化を捉えることによって脳波を測っている。

 一方の光トポグラフィは、近赤外線を利用して、脳のどの部分が活動しているかという、場所の情報が得るものである。このメカニズムは以下のようなものである。脳が活動するには酸素が必要であるため、活動が活発な部分ほど、酸素を運ぶヘモグロビンの量が多い。そこで、近赤外線を脳に照射することでヘモグロビンの量を検出し、量の多い部位、すなわち活動が活発な部位を明らかにするのだ。

 これらの二つの機械にコードがつながった帽子を被験者が被って実験を行うことで、その人の脳のどこの部分が、いつ活動しているかを同時に計ることができるのである。

実験――音列を利用する

 分節化の過程を研究する目的で、このグループでは音列を使った実験を行っている。対象は生後一歳までの赤ちゃんと大人だ。まず、3つの音からなる特定の連続音(例:ドレミ、ソラシ)を6個作り、その連続音をランダムにつなげた音列(例:ドレミソラシドレミ)を7分間分作る。連続音は「単語」、音列は「文章」に当たる。そのようなことを何も知らされていない被験者に、脳の活動を測定しながら3回聞いてもらう。音列は1つの連続音ごとに間隔を入れるなど、区切りがわかるようにはなっておらず、初めて聞いた人にはただ音が単調に続くような具合に聞こえるようになっている。被験者が大人の場合はさらに、聞いた文章に使われた連続音と、使われていない連続音の2つを聞いてもらい、どちらを先ほどの音列の中で聞いたのかを2択で答えてもらう。

 結果、赤ちゃんでも大人でも、音列の中で連続音の最初の音を聞いた瞬間に、明らかに脳が活性化していたのである。つまり、文章中の単語の区切りに当たる部分に反応していたのだ。また、聞いた覚えのある連続音を答える問題についても、約20人の大人で実験した結果、正答率は約75%であった。これらの結果は分節化が行われていることを明らかに示している。それだけでなく、生後間もない赤ちゃんもこの能力を示すこともわかった。

言語学習能力の個人差――分節化研究の応用

 アブラさんはさらに、単語の切れ目への反応の程度によって被験者を3つのグループに分けた。反応が出るのが早い順に、High learner、 Middle learner、 Low learnerとしたのである。反応が出るのが早いほど言語を習得するのが早いということであるから、グループごとの反応を詳しく研究することにより、言語の学習過程でどの程度習得できたのかを脳波から知ることができるようになる。この研究は、言語障害のリハビリを行っている際に、その効果が出ているかの判断に応用が可能と考えられている。それだけに限らず、言語学習の成果がわかるようになるということで、将来的な実生活への応用が大変楽しみな研究である。

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