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宇宙に対してかくあるべき

立花『宇宙からの帰還』を高校時代に愛読してくださり有り難うございました。
そのころ、あの本のどのあたりに一番心惹かれたのでしょうか?
野口高校三年の時に読んで以来、『宇宙からの帰還』は私が宇宙飛行士を目指すようになったうえで忘れられない本です。
子供の頃に『宇宙からの帰還』を読んで宇宙飛行士を目指した世代は私が初めてではないでしょうか。
毛利さんたちは子供の頃ガガーリン、あるいはアポロを見て宇宙飛行士になったようですし。
いま読みかえしてみるとけっこうネガティブな描写もあり、
なぜ思春期の私がこれを読んで宇宙飛行士を目指すようになったのか、
ちょっと疑問に感じますが、おそらく「生身の人間の職業」の一つの例として
宇宙飛行士が取りあげられていることが新鮮だったのではないでしょうか。
子供の頃から好きだったSFが現実になったような、
宇宙を仕事場としてすごい体験ができそうだ、
というような認識だったかと思います。
それから、口絵の" earth rise" (月面から見た「地球の出」の写真)は強烈な印象でした。
こういう景色を見てみたいと感じたのを覚えています。
立花『宇宙からの帰還』に書いたように、アポロ時代のアメリカ人宇宙飛行士の多くが宇宙で一種の意識の変容体験をしていました。
それも宇宙船の中にしかいなかった人より、EVA(船外活動)体験をした人、月体験をした人の意識の変化のほうがずっと多かったようです。
野口さんがEVA体験をしたとき、その印象を「自分はいま地球のてっぺんにいる」
と感じたと語っていました。
あのときそれに近い状態にあったのかな、と思いました。
あのEVA体験中、何を感じていたのでしょう?
それ以外の場面を含め、何らかの意識の変容体験(あるいは特別の洞察のようなものが生まれた瞬間)があったでしょうか?
野口宇宙飛行士になってからも何度も読み返していますが、
『宇宙からの帰還』の真の価値は、現実として引退後の宇宙飛行士はほとんどNASAや航空宇宙産業にとどまり、
内面的な変容体験を語る機会はおろか、自分でも意識しないことが多い中、宇宙体験を語らせる過程で精神的な影響をくっきりと浮き彫りにしてルポしている点にあると思います。
宇宙飛行黎明期のパイオニアたちと、物心つく頃には人類が月面に到達していた現代っ子飛行士では、
宇宙に行くこと自体のインパクトが違うかも知れません。
結論から言うと私の宇宙飛行の前後ではドラスティックな宗教的な目覚め、神の啓示といったものとは縁がありませんでした。
しかし宇宙に行き外から地球を見るという経験は人を変えずににはいられません。
とくに船外活動で真空の宇宙に出るのは、地球との接近体験としては質的な違いがあると思います。
窓越しに景色としての地球を「見る」のと、EVAで目の前にある地球を物体として「感じる」のとでは、
リアリティが違う。
なにしろ自分が生まれて以来見てきたすべての人々、すべての生命、すべての景色、すべての出来事は、目の前にある旧態で起きたことなのですから。
地球と一対一で対峙しながら考えたことは、見渡す限りの星空の中で生命の輝きと実感に満ちたこの星は地球しかないということでした。
それは知識ではなく実感です。
天啓と呼んでもいいかも知れない。
それが私にとっての人生観の変化と言えるものかも知れません。

第3回: (1),(2)

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