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病気の原因となる変異の発見

塩見病気との関係でいうと、ncRNAは長いこと病気との関係がわかっていませんでした。というのは、遺伝学者は病気の遺伝子を見つける時に、何をするかというと蛋白質をコードしている領域に、疾患と関連のある変異があるかどうかを詳しくみていて、今まではnon-coding 領域や遺伝子間領域を無視していた。
だけど無視できないんですよ、という一つの例がこの病気だと思います。遺伝性の病気、軟骨形成不全症という遺伝性のものなんですが、この病気は染色体のどこに原因遺伝子があるのかが1992年にもうわかっていたわけです。ところが原因遺伝子を捕まえるのに10年かかった。なぜかというと、遺伝子をコードしている領域ばかりをみていたからです。ところがnon-coding regionに、RNAと四つのタンパク質のサブユニットからなるRNA分解酵素の重要なコンポーネントの変異が見つかった。しかも、この病気は家族性なんですけど、家族のほとんどの人に変異があるというのがわかりました。これは非常に大きな発見です。
non-coding regionに病気の原因となる変異がみつけられた。遺伝子間領域にこれからは今まで見逃されていたものがたくさん見つかると思います。名前が非常に有名な病気、総合失調症とか躁鬱病とかはまだまだ病因のケースが見つかっていない。こういうのは、non-coding regionに変異があるから見つからなかったのかもしれない。いろんな病気の原因遺伝子が、こういうところにマップされているかもしれません。
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こういうのが大体のお話です。

RNAi現象とは新しいのか?

塩見スライド16
RNAiについての細かいことです。
一つ強調しておきたいのは、RNAiは非常に新しい現象で、PCRにつぐ大きな発見だという認識がある一方で、RNAiは、非常に古いものだということです.一つの例なんですが、大豆にはさまざまなタイプのものがあって、宿主の大豆とウイルスの相互作用によってできるものがあります。大豆がウイルス感染から自分を守るために戦った結果として、ある模様が作られます。どういうふうに戦っているかというと、基本的にはRNAiと同じメカニズムが使われてます。つまり非常に古いタイプの免疫機構で、外から入ってきた二本鎖を持つようなものを壊してしまう。植物のウイルスはゲノムとしてRNAを持っているので、そのRNAをつぶす機構が大豆の細胞の中にはあった。
そういう機構がいろんなとこに今つかわれています。それがたまたま1998年に再発見されてRNAiという名前がついただけなんです。
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RNAiはいろんなところに使われているというのがこのへんの話なんですが、細かい話なのでとばします。
RNAとかRNAサイレンシングというのは“小さなRNAがガイド分子として働く遺伝子発現の抑制機構”と定義できます。抑制とはターゲットRNAをつぶす、ターゲットmRNAの翻訳を抑制する、この二つです。

小さなRNAが担う重要な機能

塩見植物でわかっているRNAi機構は標的RNAを分解するということで、これが動物細胞と違うところだと思います。miRNAという小さなRNAはいろんな非常に大切なところに働いているんですけど、その一つの例をあげます。
葉の表と裏をきめる非常に重要なところにmiRNAと、それを制御するタンパク質が関与している。蛋白質の表と裏はどういうふうに決まるかというと、初期胚に転写因子の濃度勾配ができる。その転写因子の濃度勾配はどういうふうにできるかというと、その転写因子をコードするmRNAの濃度勾配できまる。mRNAの濃度勾配はこういうふうに決まる。特定の転写因子のmRNAと相補性の非常に高い小さなRNAが存在して、それがガイド分子となってmRNAを片側で分解してしまう。だから反対にだけmRNAが残るんです。
このような濃度勾配が作られることによって葉の表裏がきまります。変異体をみてみると葉の表裏のないような鶴のような葉ができます。

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小さなRNAは、実は脳の形態形成にも重要であるということもわかってきています。この実験はどういうものかというと、小さなRNAをつくるために重要な酵素、Dicerの変異体をつくると、小さなRNAは作られないということがわかります。Dicerの変異体を解析していくと、おもしろいことに軸形成とか全体の体のパターンというものに影響しているようにはみえない。最終的に大きくなるにつれて形がおかしくなり、大人にならないんですが、最も影響を受けているところは、脳の構造がおかしくなってきている。

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しかもこれが最も重要な実験なんですが、Dicerはたくさんの小さなRNAを作るわけですけど、miR-430というmiRNAを変異体に戻すと脳の形態形成がワイルドタイプに近づく。つまり特定の小さなRNAは、特定の組織の形態形成に非常に重要な役割を果たしている、ということを示している非常に重要な実験です。
では先ほどのmiR-430は何をやってるのかというと、母方からもちこまれるmRNAがあって、発生過程である程度使われるんですが、母性mRNAをある程度つぶしてしまうことに小さなRNAが関わっている、ということがわかった。母親の支配からから自分の支配に変えるスイッチを担っている分子である。小さなRNAはいろんなことに重要です。

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実は小さなRNAの動物細胞での最初の発見は、線虫におけるlin-4というものだったんです。20年近く前です。
線虫というのは脱皮を繰り返して、一齢幼虫から二齢、三齢、四齢と過程を経て成虫になる。それぞれ一齢から二齢、二齢から三齢になるには時間帯が決まっています。ところがある変異が起こり、一齢から二齢にならないという変異体があるとして、それを解析するとlin-14という転写因子がL1(幼虫の発生過程第一段階)ではオンになっており、これがオフになると一齢から二齢へ進行することができる。発生を進める、つまり転写因子をオフにするために、小さなRNAがこの転写因子をコードするmRNAの3´UTRにびびびとくっついて、mRNAをオフにするような複合体を形成します。小さなRNAがこのmRNAだけをオフにするような特異性をもっている。このことによって時間軸を調整している、ということがわかります。

ヘテロクロニックミュータントからみえてきたのは、小さなRNAが転写因子をオフにすること、lin-14とかは転写因子ですけど、その転写因子の発現を下げることによって発生が進みます。小さなRNAが発現し、翻訳を抑制することによって、転写因子の発現を下げる。ここには、転写因子と小さなRNAの組み合わせが使われている。

スライド21,スライド22
ヘテロクロニックジーンは、進化を考える上で非常に大切だと思います。例えば人の場合子供が生まれて数ヶ月間は脳の細胞がすごい勢いで分裂するんですが、一種の人のクロニックミュータントといわれていて、時間軸を考えると、細胞数が増えていきます。

人間はヘテロクロニックなミューテーションを獲得したので、脳の中の細胞をがーんと増やすことができた。もしかしたらそういうところにもsRNAが関与しているのかもしれない、というおもしろい領域です。もともと線虫でみつかったsRNAは線虫だけでなく人にも存在することがわかって、miRNAの研究が進んだ一つの理由です。miRNAはさまざまな生物種でみつかっています。パン酵母でだけmiRNAがみつかっていません。

miRNAの発現が異常になったときに考えられるのは当然病気なんですが、miRNAの発現量を、肺ガンで調べるとlet-7の発現量が低下している。
スライド23,スライド24
名古屋大学の高橋さんの世界的に見ても大きな仕事で、肺ガンが悪化しているほどlet-7の発現がさがっている、という研究があります。
let-7は何をしてるかというとrasという遺伝子の発現を抑えている、ということがわかっていて、let-7の発現がさがるとrasの発現が下がってしまう。その結果がん細胞が増えていくことが報告されています。

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いろんなmiRNAの発現パターンを、いろんながん細胞で見た場合、どういう組織由来かによって、非常に特徴的な発現パターンが見られる。 どうゆう組織由来のガンであるかというのがわからない場合にmiRNAの発現パターンを調べればそれがどんな組織から由来しているかわかると思います。let-7はがん抑制遺伝子と考えることができるのかもしれません。
miR-17の発現が上がると、がん遺伝子というふうに言うことができます。
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立花ncRNAは、miRNAからsiRNAまで、いろいろな種類がありますね。どれくらいの幅を持って、それがncRNAだということがいわれているんですか。
塩見それはもういっぱいあると思うんですね。これからやらなきゃいけない重要なものの一つに、例えば理研のグループがやってたので、mRNAタイプのncRNAを解析するというのがあります。
mRNAタイプというのは、ポリA鎖があってキャップがあるんですが、これから探索、同定していかなきゃいけないのは、ポリA鎖をもたないようなものがどれくらいあるか。ポリA鎖をもたない代表例というのは、小さなものですけれども、22ベータ。だけどそのサイズを分けていって、一キロ位までを分割していくと、最終的にそれをクローニングしていって、機能を理解していくことができる。
たぶんこういうことがもう可能になっていくはずなんです。
例えば、シーケンシングなんかは、454シーケンサーっていうのがでています。
454シーケンサーは、20万のDNA断片を同時に、つまり並列に解析できる。しかも4時間半で20ギガベース読めるっていう機械なんです。こんな革命的な技術が今できてきているので、どういうものが発現しているのかは、比較的簡単に同定できる。だけどそういうことがじゃあ何をやっているか。ここはたぶん重要なんですけど、まだまだ分かっていない。これは難しい。
立花基本的にはつぶしていくんですか?
志村それが王道ですね。でも、なかなか難しい。そこが一番のこれからの難しいところですね。
立花あとどれくらいの時間をかければ、相当部分が解明されてきますか?
志村それはね、あるブレークスルーが起こって、ある方法が確立したら早いと思いますが、それまで10年はかかるかな。
立花基本的には一つ一つつぶして何が起こるか見るんですか。
志村そうすると、メカニズムが分かるんですね。
井上さっきの長さについてのご質問ですが、X染色体の不活性化なんかに関わっているような遺伝子で、XISTっていうRNAが非常に長いX染色体と結合して、X染色体の動態を変える、っていうのが分かっています。
それは2,3キロです。
X染色体っていうのは、不活化が起こるんですよね。メスではX染色体2本、オスではX染色体1本ですよね。そうすると、そこにのっかっている遺伝子の発現量っていうのは、オスとメスでアンバランスになる。で、細胞にとっては、ある一定の量発現させようとおもったら、非常に問題になるので、不活化しなきゃいけない。
哺乳類の場合は2本あるので、一本を不活化する。不活化するために働いているのが、XISTってわけですね。おかしなことに、ショウジョウバエの場合には、同じように雌はX2本、雄はX一本っていうことなんですけど、ショウジョウバエではROXというRNAが、オスのX染色体に貼り付いてこっちを活性化させて、2本を働かせるモデル。
でもどちらの場合もncRNAは長いものが働いてます。
塩見結構大きいサイズのものがあります。例えば40キロっていうのもありますし。airっていう遺伝子が最終的にmRNAになったときには、数キロベースだったと思います。
立花大きな構造としては、人体は代謝にしても生殖にしても全部分子マシーンであると分かったわけですが、大きな流れの細かい部分がRNA研究によって見えてきたということがあるんですか。
志村脳なんかにしても、領野によって、かなりRNAの種類が違うんですよね。
立花さっきのお話の中で、統合失調症のような脳の高次の機能と関わる病気に、ncRNAが関与する、というのは、単なる推測ですか、それとも、ある程度根拠がある推測なんですか。
塩見統合失調症については、ncRNAをコードする領域っていうのが、一つすでに見つかっています。統合失調症の場合、状態がいろいろあるのが難しいとこですけど、これはおそらく重要な意味の一つではあるだろう。単一遺伝子による疾患ではないかもしれないけれども。
統合失調症へのなりやすさを決めてるようなファクターかもしれない。
例えばストレスを受けて躁鬱症になりやすい人となりにくい人がいるように。

ncRNA特有の機能

塩見長らく説明したきましたが、ncRNAっていうのは非常に重要です。
例えば、複雑化っていうものをうみだす非常に重要なエンジンになっているんではないかと考えられる。本当にそうか、というのをこれから研究していくのは重要。 それが、私や井上さんがこれからやろうとしてることです。
つまりね、どういうふうに生命っていうものを捕らえていくか。RNAが、生命システムを支えるようなプログラムとしてどういうふうに働いているかっていうのを理解していく。それが、非常に重要なことです。
で、もう一つは、ncRNAというものが次々見つかってきて、ncRNAに特有な動態っていうものがあるんだ、ってことが分かってきた。
例えば、先ほど少し話題にでた、XISTっていうX染色体の不活化に関わるようなncRNAがあるんです。その構造を見ると、典型的なRNAの構造をしてます。ギャップがあって、ポリA鎖があって、しかもスプライシングをうける。だけど、核からでてこない。核の中にとどまるために、どういう細胞がどういう機構をもっているんだろう。
そういうようなncRNA特有の動態を理解していく、っていうのがこれから重要であると思う。
スライド28
例えば面白いなと思っているのは、小さなRNAが、細胞と細胞のコミュニケーションみたいなことに使われているかもしれないということです。
そういうのもこれからみえてくるかもしれない。
3番目が、mRNAの形をとっていないようなncRNAの同定とその機能解析。4番目っていうのは、この話を始めた最初の頃に話題になったと思いますけど、ncRNAっていわれているものが本当にncRNAなのか。小さな20アミノ酸とか80アミノ酸くらいをコードするようなオープンリーディングフレームっていうものはありますよ。本当にそのオープンリーディングフレームは翻訳されてないの?翻訳されてるんだったら、何をその小さなRNAがやっているんだろう。
ncRNAの研究というのはそういう広がりもある。そういう小さなRNAが、シグナル伝達かなんかに非常に重要な役割をしてる、っていうのは研究から分かってきました。
スライド29
学生ゲノムの70パーセントが転写されているっていうのは、残りの30パーセントは転写もされてないということですか。
塩見私の個人的な理解では、おそらく全てが転写されています。70パーセントっていう値を出してるのは、いくつかの細胞を調べてそれのトータルとしてだしてます。これの解析を広げていけば増えるんじゃないかと思います。
現段階でいくつかの細胞主を調べた限り、低く見積もっても、70パーセント転写されてる。つまり、今の技術で、拾えるレベルの発現量のものを拾ってきた。それを解析した結果、70パーセントっていうことです。弱いレベルで発現しているものもあるはずで、こういう解析からは見逃されてるかもしれないですね。
でも全く転写されてない領域っていうのが見つかってくるかもしれません。それが明確にみつかってくれば、それはそれでものすごい研究領域だと思います。
立花しばらく前までは、ジャンク領域というのは、進化の産物として必然的なものなんだ、っていうような話でしたよね。そういうストーリーは今や消えつつある。
塩見そうかな・・・
立花そうかな、というのは否定ですか?
塩見はい。一番最初にだしたように、複雑な生き物であるほどジャンクが多いわけですね。そういうものを溜め込んだほうが、長い時間スパンで考えると、得だったのかもしれないと解釈できますよね。一見ジャンクに見えるんだけど、年をとるにつれて進化していく。 例えばトランスポゾンっていうのは、最初はアクティブに動きまわってるんですけど、変異が蓄積されていくと、動き回らなくなる。さらに変異が蓄積されていくと、人のゲノムの中に飲み込まれていくわけです。で、その過程で、あるトランスポゾンは、例えばある遺伝子の中にたまたま入り込んで、ある遺伝子に新しいシステムとして使われる、ということがあると思います。
ジャンクっていわれてるような領域は、そういうふうに使われてるんだと思います。 で、実は本当にジャンクだといえるような部分も一杯あると思うんです。 長い時間帯で考えると、そういうものをたくさんもってるほうが、例えば、非常に簡単な言い方をすれば、環境変化に対応できると。だから私たちは、vast reservoir for co-option of novel genes。
つまり、ジャンクといわれるような領域が、新しい遺伝子が出現するためのreservoirになっていると。
ncRNAの中には、もしかしたら、現時点では、本当に機能のないものがあるかもしれません。だけど機能のないものでも、ある弱いレベルで発現することによって、いつか使われる可能性があるかもしれない。そういうふうにも解釈できるんじゃないか、と思うんですが。

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