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松原氏取材レポート

9月25日の夜、私たちは夜行バスで東京を出発しました。行き先は山形県鶴岡市。この地に住み日本でただ一人鷹匠を生業としている松原英俊さんにお会いするためです。一週間前この取材に同行することが決まったときから、私はわくわくし通しでした。出発直前に「青春漂流」を読んで、その気持ちはさらに高まりました。

(鶴岡駅に到着)

早朝、鶴岡市に到着すると、松原さんの奥さんが迎えに来てくれました。市内で朝ご飯を食べながらお話していると、なんとこれから鶴岡近辺の観光に連れて行ってくださるということでした。取材に押し掛けたのに観光案内までしていただくなんて恐縮でしたが、初めての山形ということでちゃっかり観光スポットを調べてきていた私にとっては願ってもみないことでした。最初に、松尾芭蕉も訪れた羽黒山出羽三山神社へとつれて行っていただくことになり、こちらで松原さんも合流するということでした。私は松原さんをそれまで写真でしか拝見したことがなく、なんとなく厳しい方なのではないかと勝手に想像していて、神社に向かう間、少しドキドキしていました。しかし、実際に神社入り口でお会いしてみると、小柄なとても優しい雰囲気の方でした。

(松原さんの案内で羽黒山へ)

鷹匠の方にお会いするのは初めてだったので、私たちは山頂までの2446段の階段を上りながら、ぶしつけな質問を際限なく松原さんと奥さんに投げかけました。最もこの状態は取材終了まで果てしなく続いたのですが・・。話は鷹狩りの様子から、生物の不思議さにまで及びました。全く関係のない質問に至るまで、松原さんは真剣に、時には面白く答えてくださいました。

一番面白かったのは、蛇を見たときの反応に関してのお話です。普通の人は蛇を見た途端後ずさりしますが、松原さんは、毒を持っていようがいまいが、逆に飛びかかって行くのだそうです。蛇はクマタカとイヌワシの貴重な食べ物だということでした。残念なことに、今回の取材中には蛇に出会わず、松原さんの勇姿を拝見することができませんでした。 また、松原さんは様々な動物を食べた経験があるということで、いろんな動物の味と料理法についてお話していただき、本当に面白かったです。

羽黒山の階段は大変長く、私たちは疲れきっていましたが、松原さんは普段山歩きになれているためか、さっそうと登って行きました。途中、庄内平野が見渡せたり、国宝の5重の塔があったりと、大変楽しい場所でした。

その後温泉に連れて行っていただき、松原さん御一家の住む田麦俣という山奥の集落へ、夜になって到着しました。お宅にうかがってからも、夜遅くまでいろんなお話をうかがい、松原さんの出演なさった番組のビデオを見せていただきました。

私の印象に残ったのは、NHKで2003年5月に放映された「課外授業ようこそ先輩 人と森と命の絆」という番組です。番組中で松原さんは母校の小学生に、実際にイヌワシがウサギを捕まえる様子を見せています。それに対する小学生の反応は様々でした。全体として男の子は身を乗り出すように見る、女の子はウサギがかわいそうだと言う傾向があったようです。そのような反応に対する次のような言葉が、心に響きました。「私達が普段肉を食べているということは、たとえ見ていなくても誰かが動物を殺しているということだ。」

私も10年程前は小学生の女の子だったので、かわいそうという気持ちはよくわかります。きっとその頃に狩りを目撃したら、私もそう言ったでしょう。ですがその後年齢を重ね、番組中で松原さんの言った言葉が最近になってやっと少し理解できるようになりました。かわいそうだと思う気持ちはもちろん大切です。しかし動物の命をもらっている以上、その事実を無視せず受け止めることはそれ以上に大事なことだと思います。小さい頃にはこの気持ちを持つのは、私だったらすごく難しかったと思いますが、動物の命をもらう瞬間を目の当たりにすることで、きっといつか受け止めることができるのではないでしょうか。そんな風に勝手に解釈しながら、私もあらためて、自分は多くの動物の命をもらって生きているということを心に留めておこうと思いました。

その日はそのまま松原さんのお宅に泊めていただき、翌日も湯殿山、海などの観光案内をしていただきました。そしてやっぱり質問の嵐を浴びせかけました。何と言っても、この日は松原さんが鷹狩りに使うクマタカとイヌワシを見せていただけたのが印象深かったです。松原さんのお宅には、現在クマタカの丁号とカブ号、そしてイヌワシの崑崙号がいました。私は、覚えている限りでは実物のクマタカを見たことはなく、今回初めて間近で見たときには本当に興奮しました。猛禽類愛好家は世界中に多々いますが、その気持ちが少しわかりました。特にクマタカは、何か人間を惹きつけてやまないものがあるように感じられます。

松原さんによると、クマタカはイヌワシに比べて神経質で、狩りなども取材などで見知らぬ人間がいると、なかなか普段どおりにはいかないそうです。今回も、檻の間近に私達が近づくと、イヌワシの崑崙号はあまり構わず餌を食べましたが、2羽のクマタカの方はなかなか食べようとせず、冠を立てて鳴き、私たちを威嚇していました。時折止まり木に片足で止まったり、頭を逆さにして興味深そうにこちらを見たり、かわいらしい動作もしていましたが、やはり始終警戒をゆるめませんでした。(余談ですが、体はそのままで頭だけが簡単に逆様になったのは本当にびっくりしました。ふくろう同様、首がものすごく柔らかいようです。)

鷹匠の鷹が一般のペットと異なるところは、訓練しつつも狩りの為、野生の本能を残す、むしろ呼び覚ます必要があるということにあるのだそうです。狩りの前には絶食もさせます。人間をこれ程にも惹きつけるのは、この野生の本能があるゆえではないだろうか。威嚇するクマタカを見ながら、そんな風にぼんやり考えていました。

こんな風にして、2日間にわたる取材旅行は瞬く間に過ぎてしまい、お別れするときには本当に残念でたまりませんでした。今回の取材を通して、感じたこと、学んだこと、楽しんだことは数え切れません。ですが何よりもまず、松原さんという素敵な方に出会えたことが、私の中で一番の収穫でした。

最後ですが、今回取材を引き受けてくださったのはもとより、観光地を案内してくださったり、泊まらせていただいたり、何から何までお世話になった松原さん御一家に本当に感謝いたします。

(松原英俊氏、2日間ありがとうございました。)

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文責:戸松 あかり

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