「オバケ」はなぜ見えるか?
NHK解説委員・「科学大好き土よう塾」塾長(NHK教育) 室山哲也
奥深い山や公園を歩いていると、木の間に不気味な人間の顔が急に見えて、思わずギャッと叫んだことはありませんか?
目を凝らすと「顔」はますますはっきりしてきて、こちらを向いてにやっと笑っていたり、表情までくっきりと分かる場合すらあります。
これは心霊現象なのでしょうか?それとも未知の科学現象なのでしょうか?
実はこれは、私たち人間の脳が作り出していることなのです。
下の図を見てください。
じっと見つめていると、真ん中に白い三角形が見えてきます。
だけどよく見てみましょう。
図にかかれているのはパックマンみたいな円形と、二つに折れ曲がった線だけで、白い三角形がかかれているわけではありません。
白い三角形は実際にはないのに、なぜ見えるのでしょうか?
これが人間の脳がなせるワザなのです。
人間の脳は「断片的な情報」をつなぎ合わせて勝手に別のものを作り上げる「クセ」があります。上の絵の場合、パックマンや折れ曲がった線をつないで、その間に勝手に白い三角形を脳が作り上げているのです。このように人間の脳は、ないものを、あたかもあるもののようにイメージ化してしまうのです。
なぜこのようなことがおきるのでしょうか?
人間の脳は他の動物と比べて大きく、情報を組み立てる力が極端に強くなっています。この脳の中で様々な感情や、知性が組み合わされて、私たちの心や精神活動が出来あがっています。
たとえば、モノを見るとき目から飛び込んだ情報は、いったん脳の中でばらばらに分解されて、もう一度組み立てなおされます。Aさんの顔を見たとき、目から脳に飛び込んだ情報は、「線」や「傾き」や「色」など、顔を作り上げている要素にばらされて、脳の中でもう一度組み立てなおしてAさんだと分かるようになっています。なぜこんな面倒なことをしているのかというと、「応用を利かせる」ためです。Aさんの顔は写真で見ると一つしかありません。でもひげを伸ばしたり、日焼けしたり、カツラをつけてもAさんだと分かるためには、脳は写真をそのまま受け取るよりも、要素にばらして組み立てなおせば、柔軟にAさんだと知ることが出来ます。
私たちは「目でAさんを見ている」と思っていますが、実は「脳で見ている」のです。
目を閉じているのにいろんな光景が見える「夢」も「脳が作り出す世界です。
このような人間の脳の特徴は、うまく使えばすごいパワーを発揮します。山の中に逃げた獲物を探すとき、フンや足跡からそのエモノの種類、数、逃げた方向を割り出すように、人間の脳は断片的な情報からイメージをつなぎ、全体的な認識へと高めていくことが出来ます。人類が作り出した数々の文明も、そのような脳の力が生み出したものです。
でも、脳の使い方を誤ったとき、ありもしない幻想が生まれ、その幻想のために人間が不幸になってしまうこともあります。「戦争」はそのようにして起きるのだと思います。
脳は、人間が進化の中で手に入れた「ものすごい臓器」です。
人間の脳のしくみをきちんと理解して、正しく使えるように努力することがなによりも大切です。
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