講演内容先取り紹介
竹入康彦「一億度のプラズマを加熱する」
プラズマ加熱方法の一つ、「中性粒子加熱法」とは?
竹入先生は、プラズマを一億度に加熱する中性粒子入射加熱法(Neutral Beam Injection:NBI)を研究しています。この方法では、プラズマの"もと"になる粒子を加速させ、ビーム状にまとめてプラズマに打ち込みます。打ち込まれた粒子はプラズマの中で電子や原子とぶつかり、摩擦熱を発生させながら、プラズマ内を周回します。この摩擦熱によってプラズマが加熱するのです。
しかし、プラズマにこの粒子ビーム(以下"ビーム")を打ち込むためには3つの大きな問題がありました。
粒子を加速する
最初の問題は、粒子を加速させることです。
プラズマを加熱するために必要なビームの速度は2000km/s以上。ロケットの打ち上げ速度(約10km/s)と比べると非常に高速です。これを満たすためには粒子をイオン化し、加速器を使って電気的に加速します。LHDでは元素の中で最も軽い水素をイオン化し、加熱に用いています。
このとき電圧が高ければ高いほどビーム速度が上がり、電流が強ければ強いほどたくさんの粒子がプラズマに打ち込まれます。LHDの中のプラズマを加熱するには180kV・30A(一般家庭の約2000軒分)の電力を持つ加速器が必要です。
ビームをプラズマに入射する
加熱方法の名前にあるように、ビームがプラズマの中に打ち込まれる粒子は、電気的に中性(+でも−でもない)でなければいけません。もし電気を帯びていたら、プラズマを閉じこめる磁場に弾かれ、プラズマ内に入ってくれないからです。それならば、初めから電荷を持たない中性の粒子を打ち込めばよいのですが、中性粒子を強力に加速する方法は残念ながら見つかっていません。そこで前項で述べたように、電圧をかけて加速したイオンを中性化してプラズマに入射するという、一見遠回りな方法を使っています。中に入った粒子は再びイオン化して磁場に閉じ込められるため、プラズマを加熱しながらLHDの中でグルグルと回っていきます。
通常、ビームに使われていたのは+、すなわち正の水素イオンでした。しかし、正イオンはイオン化しやすい分、電子をまたくっつけて中性に戻すのが難しいと言う問題点があります。しかも加速されたイオンは目にも留まらぬ速さで運動しているため、中性化の効率が劇的に落ちてしまいます。そのためプラズマに侵入する粒子がほとんどできず、使い物になりません。そこでイオン化は難しいのですが中性に戻すのが簡単な−、すなわち負の水素イオンでビームを作ることにしたのです。
負イオンを作る
水素の負イオンを作るには電子を一つくっつけてあげるだけで完成します。しかし、水素原子は電子を引き止める力が弱いため、負イオンは作りにくく、またすぐに中性の状態に戻ってしまいます。そこで水素に効率よく電子を与えるために、セシウムを含んだガスを加速器の中に加えます。セシウムは他の物質に電子を与えやすいという特徴を持っているためです。
実際の加速器では電極の手前にセシウムの被膜を作り、そこに水素原子を通す形となっています。これによって水素が簡単にイオン化することが可能になりました。結果、プラズマに打ち込める粒子の量は劇的に増え、先ほど述べた180kV・30Aの加速器を作ることが可能になりました。
プラズマを加熱・そしてこれからの加熱
核融合研では、LHDの周りに3台のビーム加熱装置を配置し、プラズマを加熱しています。今までの研究ではプラズマを1億5千度まで加熱することに成功しました。これから研究を続ければ性能の高いビーム加速器が登場し、さらに高い温度へ加熱することが可能となるでしょう。
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