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筋ジストロフィー患者の筋肉

筋ジストロフィーは、遺伝病(遺伝子の異常で起きる病気)の一種で、全身の筋肉が次第に弱っていく病気である。これは、筋肉の再生能力が低下して筋肉が一方的に壊れていく(変性する)ために起こる。健常者でも、歩くだけで筋肉の細胞は壊れてしまうし、激しい運動や打撲をするとより多くの筋肉が壊れる。しかし、運動することで同時に再生もする。例えば、入院や骨折などにより筋肉を使わなくなると逆に筋肉は再生されにくくなる。だが、筋肉を分解する酵素は通常通り作用するため筋肉の量が減ってしまう。変性と再生のバランスがとれているので筋肉の量は保たれているのだ。しかし、再生能力が低下して変性が進行するとこのバランスが保たれずに筋肉の量も次第に減ってしまう…これが筋ジストロフィーである。

すなわち健常者は、地球の通常の重力で筋肉の変性と再生のバランスが安定しているといえる。ところが、筋ジストロフィー患者は通常の重力下では筋肉が弱って壊れやすい。このことから、松田先生は「月のように重力が6分の1のような場所であれば、筋ジストロフィーの患者は発症しないのではないか。逆に、健常者が通常の2,3倍の重力の世界に行くと、筋肉の変性が進んで筋ジストロフィーの症状が出るかもしれない」とおっしゃっていた。私は、先生の柔軟な発想に驚いてしまった。

症状の重いデュシェンヌ型筋ジストロフィー

筋ジストロフィーにもいくつか種類があるが、今回はDMD(Duchenne Muscular Dystrophy:デュシェンヌ型筋ジストロフィー)と呼ばれるタイプを主に取り上げる。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、今から138年前にフランスのデュシェンヌという精神科医がこの疾患の報告をしたことが名前の由来となっている。DMDを発症した患者は幼稚園・小学校低学年程度までは歩いたり走ったりできる。しかし次第に筋肉の量が減少し、小学校高学年頃になると歩けなくなり、20歳前後で呼吸不全または心不全により死に至る場合が多いそうだ。未だ治療方法は見つかっておらず、唯一可能なのは人工呼吸器を気管に挿入して呼吸補助し、延命することだけだ。この方法は、24時間人工呼吸器で空気を出し入れし呼吸させるため、患者は人工呼吸器を装備した車椅子やベットを使用することになる。これにより上手くいけば30歳程度までの延命が可能となっている。

今回取材させていただいた松田助教授は20歳の筋ジストロフィーの患者に会ったことがあるとおっしゃっていた。その患者には、母親が付き添っていて床ずれを防ぐために24時間休まず、30分毎に寝返りをうたせていたそうだ。筋力が低下しているために一人では寝返りがうてないのである。週一日だけボランティアの方が来て、その日だけ母親は寝れるそうだ。私はその母親の身体的負担、精神的負担を想像しただけでめまいがした。

このようにDMDは重症になりやすく、男子が3千〜3千5百人に1人程度の割合で発症し筋ジストロフィーの中で最も患者数が多くなっている。

筋ジストロフィーの原因

筋ジストロフィーの原因となる遺伝子が発見されたのは、1987年ハーバード大学のクンケルによってであった。当時、筋ジストロフィー・免疫不全・多発性の腫瘍という三重苦を抱えたブルース・ブライアンという少年の遺伝子を他の健常者の遺伝子と比較してみると、ブライアンのX染色体は一部がごっそり欠失していた。実は、この部分に含まれる遺伝子にはジストロフィンというタンパク質を作っているものがあり、このジストロフィンの欠如により筋ジストロフィーが起きているとわかったのである。

ジストロフィンは筋細胞の細胞膜に存在して、細胞外と細胞内をつないでおり、筋細胞の膜が破けないように弾力性を持たせる又は、破けてもすぐ修復するような役割をしているのではないかと考えられている。筋肉を構成する2つの繊維(筋原繊維)が収縮すると筋細胞の膜も伸縮するなどのストレスをうける。その分、健常者では筋細胞は他の細胞より頑丈にできていて破れにくいといえる。ジストロフィンがないと、筋肉の膜が脆弱になり、破けやすくなり、そのまま修復されないとその筋細胞は死んでしまう。このように、ジストロフィンが作れないため筋細胞が死に、その結果、筋力が低下する。

ジストロフィンの遺伝子はX染色体上に存在する。女性は、X染色体上の遺伝子が原因となる病気にかかりにくいため、松田先生は「女性は得だ」とおっしゃっていた。詳しく説明すると、人間は全部で23対46本の染色体を持つが、そのうち23対目の染色体が女性は2本ともX染色体、男性は1本がX染色体でもう1本がY染色体となっている。X染色体を2本持っている女性は、片方に異常があってももう片方のX染色体が正常であればさほど影響は出ない。しかし、男性はX染色体を1本しか持たないためにその一本のX染色体に変異があると筋ジストロフィーなどの病気を発症してしまう。このことから男性は女性に比べて筋ジストロフィーなどX染色体に原因がある病気(赤緑色盲、鎌形貧血症など)になりやすいのである。松田先生は、「女性はX染色体のバックアップを持っているようなものだ。」とおっしゃっていた。

文責:平山 佳代子

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