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JAXAとの共同研究

隕石・彗星内ハビタブルゾーン研究 -パンスペルミア仮説を検証する-

野村

JAXAとの共同計画について伺いたいと思います。擬似隕石の中に微生物をうめこんで宇宙へ発射し、宇宙放射線を浴びたときに中の微生物がどれくらい生き延びるか、調べるということですね。そしてこれがパンスペルミア仮説(※)の検証につながるということですが…。

長沼

これはロマン。宇宙で旅する生き物にとって一番こわいのは放射線。我々は地球上、つまりバーレーン体の中にいて、そこに守られてる。バーレーン体をでちゃうと、ものすごい強力な放射線が一杯でるわけ。さらに、そうとはいえ、太陽系内にいる間は、やはり太陽圏っていうのがあるのよ。太陽圏によって、太陽圏の外側のもっと強力な放射線から守られてるの。まぁもしかしたら銀河圏っていうのがあるかもしれないけど。まぁたぶん何層かに、階層構造があって守られてるとは思うんだが、外に行けばいくほど、強くなる。

生命の宇宙進出、生命は、宇宙を動き回るためには、それに耐えなきゃなんない。地球生命であれ、どんな形の生命であれ、あるいはロボットであれ、コンピュータであれ、放射線にはかなわない。

野村

火星からきた隕石に、生命の起源となる微生物がいたって一時期騒がれていましたが、その微生物と思われていた痕跡が、微生物にしては小さすぎるっていうことで、今では違うのではないかと考えられていますね。

長沼

火星からきた隕石をぱかっとあけたら、中に微生物らしきものがいた。その細胞は普通の微生物の、サイズにすると、10分の1以下。体積にすると、1000分の一以下。一番小さい微生物に比べても結構小さい。そういう小さい入れ物のなかに、細胞を動かす道具一式は入ってるんだろうか。リボソーム、ゲノム、酵素、一式入っているんだろうか、っていうのが謎なの。

普通に考えたら、そういった小道具一式は入れない。だから、そういった理論的な考察からこれはだめだっていう話になっちゃう。だけど、僕っていう人間は、理論はさておき、実証派だから、まずそういう微生物をつかまえちゃおうと思った。そう思ってさがすと意外といるもんで、おお、いるじゃんかと。この小さい入れ物のなかにも全部が入ってるにちがいない。なぜならこいつは生きてるからね。

野村

それはどこで見つかったんですか?

長沼

一番最初はもちろん極限環境から探した。だけど、どこにでもいるんだ、って僕は信念をもってます。

(※)用語解説

パンスペルミア仮説:生命起源論のうちの一つ。地球圏外で発生した圏外生物の胞子、パンスペルミアが、地球などの惑星に降下して、その惑星の生命起源となるという説。

生命の起源を探る -D型とL型(※)-

野村

じゃあ、極限環境を調べるメリットは?

長沼

生命に関する認識を覆せる。つまり、小さい微生物なんていないっていう常識があったけど、それに対していたっていいじゃんっていえる。実際に出せる。

我々がやってる一番チャレンジングな仕事は、アミノ酸の話。今地球上の生物は、ほとんどL型。左手型。我々はなんでか知らないけど、地球上の生物はみんなL型。これを説明する理論はまだない。Lがあって、まれに非常に例外的に、Dがあるだろう。それは、例えば敵に不利な影響をおよぼすためにね。

野村

宇宙にあるものは、全部L型なんでしょうか。

長沼

L型しかないことを説明する方法はいくつかある。一つの考え方としては、必然説。L型は宇宙空間のどこでもできるが、宇宙に充満している何かの力によって、Lばっかり残ったという説。例えば、一つの候補は、どっかで爆発した超新星が発した光だったりX線だったりが、L型だけをのこしたということです。こういう必然説を主張する人たちは、D型だけを消す、もしくは、L型だけを生成する、そういうふうな、L型がこの宇宙の必然であるというデータを一杯だしてくる。でもそれは一つの考え方に基づいた論文なので、それがサイエンスにのろうが、ネイチャーにのろうが、色々証拠を集めようが、最初からもうバイアスがかかってるんだ。

さて、もう一つの考え方は、偶然説。L型でもD型でもどっちでもいいのよ。たまたま地球にふってきた有機物、あるいは地球でできた有機物、どっちでもいいけど、たまたま最初に理論的には50対50でできるものが、50対49とか、ちょっとしたローカルな揺らぎが生じる。このローカルな揺らぎは、ハイパーサイクルっていう不思議な湯加減によって、50対49を何乗かすると、ものすごい差がでちゃう。

さて、L型は、宇宙の必然か偶然かという問題にもう一回帰ってくるんだけど、本当はそれは裏返ってて、地球生物の系とは、単系統、単一だっていう信念が我々にはある。我々は全て、同じく、セントラルドグマ。つまりDNA→RNA→たんぱく質という流れがあって、DNAがたんぱく質をコードする方法はみんな共通なわけ。全生物がそうだと、教科書に書いてある。だけど僕はほんとうにそうかといいたい。

ここで思うことは、じゃあ違う生き物を発見したらすごいじゃんと。宇宙生物の発見だよ。違う系統の生物を発見する一番簡単な方法は、D型のたんぱく質をもつ生物。まず我々の遺伝子は、D型アミノ酸はコードできない。だから、D型アミノ酸生物を見つけた瞬間から、全てが変わるわけ。セントラルドグマがひっくりかえっちゃう。

こういう話をすると、そんなのいるわけないじゃん、っていわれる。これが、我々人類の今の知の限界だよ。でも、極限生物学をやった人間としては、ここの枠は取っ払いたい。いてもいいんじゃない、と思う。いないっていうなら、出そうか、っていいたい。で、今D型を探してる最中。

でも実は、たんぱく質を作るアミノ酸の、50%がL型、50%がD型っていうものが見つかってるんだ。自然に存在している。ただ、それはほとんどが遊離アミノ酸だから、つまんない。

ほんとに面白いのは、たんぱく質の中にD型が入ってること。これが面白い。たんぱく質のある特定の場所にD型をうめこんだら、それは遺伝子につながんない。最終的に遊離の単離のアミノ酸はほっておいて、合成アミノ酸の中にD体を発見したら面白いだろうなーと。できれば100パーセントD体のもので。

今までいろんな生命に関する理論があったけども、DLの問題を説明をした理論は一個もないんだ。これを説明しない理論は、僕はどれも信じないっていうか、どれにもくみしないね。

野村

生命の起源って、推論の域をでないですよね。

長沼

もちろん。でも事実は一回性だよね。それは必然か偶然かも分からない。我々はこういう一回性のサイエンスを扱う術を知らない。

野村

熱水噴出孔を調べれば、生命の起源に似た場所を見つけられるということはありますか。

長沼

もちろん。生命が誕生した場所っていうのはいくつかあるが、おそらく熱水噴出孔の、チムニーからむくむくでてるとこ。海底火山の我々のご先祖様の末裔がいるに違いない。

だけど、この末裔といえども、40億年近い歴史を経ている。ご先祖様とはたぶん違うんだよね。例えば簡単にいうと、フォードっていう車があるよね。これと外見は似てるけど、中身は違うよな。フォルクスワーゲンっていうのは、外見は全然変わってない。中身が変わってるんだよね。今のフォルクスワーゲンを見て、原型のフォルクスワーゲンの中身が分かるかっていったら、難しいと思う。

(※)用語解説

D型L型アミノ酸:アミノ酸の分子には「L体(左型)」と「D体(右型)」という、互いに鏡像異性体(立体構造が鏡に映したような関係で、重ね合わせることができない)の関係にある2種がある。分子をつくる成分は同じだが,人工的にアミノ酸を合成すると,通常L体とD体が半々の割合になる。ところが今のところ、ヒトを含めた地球の生物にはL体アミノ酸しか見つかっていない。

セントラルドグマ:地球上の全ての生物の細胞内では、遺伝情報がDNAからRNAをへてタンパク質へと流れる。このシステムをセントラルドグマという。

N=1のサイエンス、ばらつきのサイエンス

長沼

考えなきゃいけないのは、我々は地球というしか知らないんだよね。Nというサンプルナンバーが1なわけ。我々は、実をいうと、N=1のサイエンスを知らない。我々の知ってるサイエンスっていうのは、統計的な処理が可能なもの。例えば、N=30とかで、その中で再現性を見るわけ。N=1のデータをどう扱っていいか、我々は知らないんですよ。

それと、たぶん次の生き物が他の星で見つかって、N=2に増えるよね。でもこれはたぶん地球とかなり違った環境だよね。そうするとこれは再現性がない。N=2なんだけど、両方ともとても違ってて、ばらついちゃう。我々がもうひとつ弱いのは、こういう、ばらつくサイエンスをもっていないこと。

N=1のサイエンスを知らない、ばらつくサイエンスを知らない。

我々のサイエンスっていうのは、物理科学の法則に支配されていそうに見えて、実はとっても偶然というか、歴史性に支配されているし、影響されてる。ある日ある時、隕石がふってくるとか、ある日あるとき、地球で火山が噴火したとか、よくわかんない物理科学の歴史的な影響を及ぼすわけね。N=1のヒストリーっていうのは、とっても歴史的で、物理科学の法則の及ぶ範囲の外にあるわけ。そういうのを扱うすべをもっていない。

歴史性のあるものにたいして、どうサイエンティフィックに、理解し、説明していくかということも全て扱う術を持っていないんだ。地球生命を理解する上で、いろんなことで我々は制約を受けてるわけ。だから通常の範囲では、たぶんやっていけない。それはもうそういうふうに開き直って、やってくしかないと思う。歴史性があって、偶然にとっても左右されてる。しかも、N=1だから、比較ができない。 仮にN=2になっても、ばらつく。再現性がない。

これはもう覚悟の上で、話を進めないと、いつまでも不毛な議論が続く。宇宙生命論、生命進化論とかみると、大概そういうので終わってるわけね。制約っていうか、十字架をしょっていかなきゃいけない。その上で地球生命っていうものを考えると、地球生命はわれわれの知ってる生物以外は想像のしようがないわけ。どこまで想像の幅を広げられるかが、我々には試されてるわけね。こんな生命があってもいいんじゃない、あんなのがあってもいいんじゃない。常識人だったら一笑にふすようなものでも、いやちょっと待てよ意外とあるかもしれない、っていう柔らかな発想が必要なわけ。

その発想を訓練できるのが、極限生物学なの。こんなのもありかっていう、驚きの連続だから。

チューブワームの不思議

野村

深海にはすごく変な生き物がいますね。初めに、「深海生物学への招待」(NHKBooks)を読んだときに、チューブワーム(※)の記述がすごく面白かったんです。中に細菌を共生させていて、ある意味、光合成をしていて、植物的なんだけど、チューブワーム自体は動物。しかも光を利用しないで、地球を食べて生きている。

長沼

動物の定義がくつがえったの。僕は高校生に、動物の定義とは食べる生き物だというんだ。それに対して、植物は食べない生き物。じゃチューブワームはなんだ、というと食べない動物。これは矛盾に満ちた言葉。チューブワームはものを食わない。だけど、チューブワームは生命の定義からいうと、動物です。これは矛盾に満ちてる。従来のサイエンスでは説明できない。

この矛盾に満ちた存在っていうのは、ヘーゲルの弁証法と同じ。Aっていうのがあって、antiAっていうのがある。nonAね。この2つを同時に説明しなければいけないときに、人々は悩んだ。それで、ワンランク高いところから話しをするわけ。それをoutreachといって、高い位置に達した段階で、Aも、非Aも含む新しいnewAという概念がでてきた。チューブワームはそういったものを我々にみせている。

従来のサイエンスでは説明できないけど、次元をあげてみると、説明がつく。動物は食べる生き物であるんだが、食べ方が違うんだよ。食物の供給源を自分の中に内部化しちゃったわけ。まぁある意味、自家発電してるといっていいでしょうね。

(※)用語解説

チューブワーム:閉じた袋状の形をしている。口も消化管もない。体の中に化学合成細菌を共生させ、硫化水素をエネルギー源とする。太陽エネルギーを利用しない、「地球を食べる」生物。深海の熱水噴出孔付近に生息する。

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