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人工的に器官を作る

この手法をカエル胚に用いて、これまでに浅島研では様々な器官を作り出すことに成功した。

心臓は、臓器を作り出すだけでなく、移植にまで成功している。試験管の中で、体内のそれと同じように拍動する心臓を、他の胚(予定心臓領域を切り出して心臓ができない状態にしてある)に移植すると、もとからあった静脈や神経と導入された心臓がつながって、胚は正常な成体(カエル)にまで成長する。さらに興味深いのはこの人工心臓を、普通の胚の、本来心臓のない部分(下腹部)に移植した場合だ。カエルは二つ目の心臓と同時に、二つ目の肝臓まで手に入れてしまう。本来の心臓としての“位置情報”を与えられなかった人工の心臓が余分に働いて、肝臓まで作り出してしまったのである。結局このカエルは心臓と肝臓を二つずつ持ったまま成長した。最初から持っている「生まれつきの肝臓」は、移植によってできた肝臓と仕事を分担して、一般のカエルよりも小さくなったという。このように、胚を形成している細胞は、環境(周りにある化学物質、もしくは胚のなかにおける位置)によって様々に発揮する機能を変える、意外な柔軟性を持っていたのだった。

同様に眼も、移植に成功している。眼そのものだけでなく、網膜から伸びる視神経が中枢神経まで到達し、一連の「視覚」のルートが完成されていた。

すい臓は、体内で様々なホルモンを分泌し、消化にも関わっている重要な器官である。これはアニマルキャップを適当な濃度で処理したあと洗い、レチノイン酸という別の物質のある環境下で培養すると出来上がった。生体外(in vitro)で作り出した細胞が、ホルモンを分泌し、一人前の内分泌細胞として機能した。

腎臓のもととなる原腎管も作り出せた。人工腎臓は特にヒト医療分野での応用が期待される。日本では多くの腎不全の患者さんが、人工透析の治療を受けているが、これは金銭的・時間的なコストが高いうえ、根本的な治療ではない。しかも、腎臓移植はドナーが不足している。このような状況を解消する足がかりとしてこの研究は有望であるが、まずはカエルからヒトへ、実験対象の移行をしなければならない。その第一歩として現在行われているのが、マウスを用いた実験である。

マウスではES細胞に特定の誘導物質を加えることで、心臓や膵臓、繊毛などを作ることに成功している。このことは、それぞれの臓器に特異的な物質の発現や構造によって証明されている。それでは、ヒトの再生医療はどうだろうか。現在の再生医療の研究の多くは、ヒトの場合はES細胞を使うのに倫理的に制限があるので、骨髄などから未分化細胞を取り出すことから始まっている。しかし、浅島教授が考えているのは身体の組織から取り出した細胞を脱分化させることであり、これを継代させると幹細胞になる。この幹細胞に特定の誘導物質を加えて、三次元構造の臓器を作りたいと考えているというのだ。

「生物のからだはなぜ、こんなに巧妙にできているんだろう」とずっと思ってきたが、このように見ていくと、その神秘的な諸器官もいまや、作り出せないものはないような気がしてくる。

>>この技術の将来

文責:徳田 周子

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