長崎研究室取材
長崎 晋也教授のことを始めて知ったのは講義のときでした。 その講義の中で国際情勢によって研究の進行を左右されてしまう分野のことを教えていただきました。 とても熱心に話をしてくれたので、先生のことをもっと詳しく知りたいと思いました。 そこで、立花ゼミのメンバーで東京大学でプルトニウム(※1)の研究をしている長崎晋也教授に、 研究をする理由についてお話を伺ってきました。
研究内容の紹介
― 先生はどのような研究をなさっているのですか ―
放射線廃棄物が地球の中をどういう風に動いていくかというのがね、それが研究の今までの大きなターゲットだった。
ダイオキシンで言えば、暴露(※2)される一番大きな経路は日本の場合、沿岸の魚介類からなんですね。ということは、焼却場から舞い上がった煙が大気中吹き上がって、落ちて水とともに流れていって海まで行って、海の中で食物連鎖の中にのって、魚とか貝のなかに蓄積されてそれが食卓にのる。それを我々が食べる。それで初めてダイオキシンを体の中に入れる。
それと同じことをプルトニウムやウランについて研究している。
それともうひとつ、最近は原子力利用を手助けする研究しようと思うようになった。具体的にはごみ問題と核不拡散問題。
原子力に伴うふたつの問題
― 原子力利用を手助けする研究をしようと思ったのはなぜですか ―
とにかく原子力を日本の中できちんとやっていくには二つ抜けていることがある、ひとつはごみ問題。
うん。廃棄物の問題。これを解決しないことには。例えばね、発電の方はものを生み出す、エネルギーを生み出すから、これはほっといてもやるんですよ。廃棄物は価値を生み出さないけど、ゴミ問題というのは必ず共存・解決しなければならない問題だからね。反対派は現状をトイレなきマンションといっているんだよね。
発電はしているけど廃棄物処理はできていない。これは言い得て妙、センスのいい言葉だと思う。
もうひとつは核不拡散の問題やテロの問題。こういうものに関してこれからは、特に日本は、考えていかなければならない。ということを最近思うようになったわけ。特に原子力の一番の特徴は、爆弾になるということだからね。他の分野には絶対にない。これに対してきちんと対応していくような技術を開発していかなければならない。それを核利用の問題・廃棄物の問題に取り込んでいかなければならない。
原子力で、勝ってやろう
― 原子力を研究しようと思ったのはどうしてですか ―
学生のとき思ったのは、学科に入るとき日本がアメリカに負けているものはなにかということ。あの時は鉄鋼も自動車も勝っていた。アメリカがちょうど上向きになろうとしていたころだから、多くの分野で日本が勝っていたんだよね。見かけ上は勝っていたけれど、負けている分野は絶対ある。なにかというと軍事と宇宙と原子力。これはアメリカに完全に押さえられている。三つのうち、どれか勝ったろう!!と思った。
それはね、俺はせっかく東大まで入ったんだから、何かやったろうと思って。それに若いからさ、20歳くらいだし、そのころは怖いもの知らずだし。それで、軍事はありえんわな。
ね。これは絶対に勝てない。で宇宙はというと、宇宙もちょっと勝てそうな感じしなかったね。それにさ、宇宙はどうせ日本が頑張らなくたって他の国に乗せて貰えばいい、極端なことを言えばね。でもエネルギーは、日本のことは誰も考えてくれないからね。日本人以外。このなかで原子力というものが無ければ、絶対に立ち行かないだろうと思った。あの時はまだ、チェルノブイリ原発事故は起こっていなかったけど、スリーマイル島の事故はもう起こった後で、原子力に逆風が吹き始めたころだったけど。原子力が一番やらなくてはならないことで、なおかつ勝てるものだと思って原子力に来たんだ。
きづいた人がやらなければいけない
― 今やっている研究を始めたきっかけはなんでしたか ―
やっぱり気がついた人がやらないといけないのよ。
見ちゃった人だね。(気が付いた人として)地道に社会の役に立つことをやって行きたい。
水俣病の原田正純先生って知ってる?原田先生という方がおられて、熊本大学医学部の先生だったのね。院生のときに水俣病の現実に気付いて、ずっと研究していた。政府からすれば水俣病というのは触れられたくない分野だから、ある意味というかはっきり言って干されてた。だから苦労なされてきたんだけど、その先生がいろんな本を書いているから皆が社会に出て行く上で読んで欲しい。そのなかに書いてあったことでね、他の熊本大学の先生もかかわらなかったの、水俣病に。そして他の先生から水俣病にはかかわるなと言われてた。他の先生からすれば、ある意味親切心なんだろうね。なんだけど、原田先生は見ちゃったと、水俣病の現実はこれなんだと、それで行動を起こさない人は人間としてだめだと。
そういう意味で私も気がついたかな。この現実を知ったら自分はもう逃げられないと感じたんだ。地道に研究をしてものを言っていこうと思う。
みんなもこれはやらなければならないと、気がつくときがあると思うんだよね。
そういうときにそれを是非やってもらいたいと思う。あんまり人がやってないことでも自分がほんとに大事だと思ったらそれをやったほうが、そしてやれる環境にあって欲しいなと私は思うな。
文責:田畑 平
注釈
※1
プルトニウム:原子番号94の元素である。元素記号はPu。放射線元素でもある。プルトニウ239,241その他いくつかの同位体が存在している。純度の非常に高いプルトニウム239は核兵器に使用される。原子力発電の廃棄物にはプルトニウム239や他の同位体が含まれている。日本にはプルトニウム239の純度を高める技術がない。プルトニウム239は純度が高くないと爆発しない。
※2
暴露:その物質にさらされるということ。
準備中