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世界がびびるJAMSTECで微生物の研究を

高井さんがアメリカの大学院に留学していたとき、ニューヨークタイムズが「JAMSTECが世界で最も深く潜水できる有人潜水艇『しんかい6500』を作った」と大々的に報じた。JAMSTECは、日本国内よりもむしろアメリカやヨーロッパで広くその名が知られている研究所で、当時、日本で深海熱水噴出孔に潜航し研究できるのは、ほとんどJAMSTECの研究者だけだった。というのも、「しんかい6500」や「かいこう」など、潜水調査機器や調査船を持っていたのは、ここだけだったからだ。

しかしそのJAMSTECでも、深海の微生物の生態学はまだ誰もやっていなかった。世界に誇る設備を使って微生物の生態の研究をしてみたい。「俺がやらねば誰がやる」。高井さんはこの報道を耳にしてそう思うようになったという。

この願いは博士課程終了後に紆余曲折を経て実現することになり、高井さんは「しんかい2000」や「しんかい6500」に乗って、深海熱水噴出孔でサンプルを集め、その中の微生物を調べ始めた。

いったん自分の道を切り開いてしまえば、後はその道を進んでいくだけだ。今は、世界各地の深海熱水微生物に関して一番情報をもっていると、高井さんはおっしゃる。

熱水噴出孔

さて、では熱水噴出孔における地球微生物学の研究を紹介する。

熱水噴出孔は、深海の静的なイメージを完全に覆す、非常に活発でダイナミックな区域である。4度より冷たい深海の中で、300度を超える煙状の熱水が吹き上がるのだ。なぜこのようなことが起きるのかというと、地殻の割れ目から浸み込む海水が、海底下数kmでマグマの熱で加熱され、熱水として噴きだすからだ。

煙状の熱水の中には、ブラックスモーカーと呼ばれる真っ黒な熱水がある。ブラックスモーカーは、それまで硫化物が完全に溶けていた熱水が急激に冷やされて、溶けきれなくなった硫化物が析出したため、黒い煙になったものだ。

熱水を噴き出す煙突はチムニーと呼ばれるが、これは、海水中の硫酸イオンと、熱水中のカルシウムイオンが反応して、硬石膏が析出してできたものである。硬石膏の壁ができると隙間に硫化金属が蓄積してゆき、やがて重金属の塊のチムニーとなる。実はこうしてできた熱水鉱床は、時代を経て金属資源の源となる鉱山の母体になる。

ちなみに、300度という高温でも水が沸騰しないのは、高圧がかかっているからだ。10メートル深くなるごとに、一気圧ずつ増加するというから、例えば2000メートルの深さでは、圧力は200気圧にも達する。

また、熱水噴出孔付近には、シロウリガイやチューブワームなど、様々な生物がびっしりと住んでいる。深海の生物は、表層の海から時たま降ってくる有機物のちりを食べて、か細く生きているのだろう、と思いがちだが、これらの熱水活動域周辺に生息する生物は熱水に含まれる硫化水素やメタンガスなどから有機物を作り出す化学合成を行うバクテリアと共生して、活発に生活している。

このように、熱水噴出孔は、深海の静的なイメージとかけ離れた動的な場所であり、研究対象としても刺激的な場所なのだ。



(熱水が噴き出る煙突、チムニー)



(チューブワーム。口も消化管もなく、中に住む共生バクテリアから栄養を得ている)



(熱水噴出孔付近には、びっしりと生物が存在する)

高井さんは、原始の地球における微生物の生息環境を再現している場として、熱水噴出孔下に着目した。

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