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wetな実験とdryな実験

関水僕は実際今ドクターの学生なんですが、現状をみると、一大プロジェクトをやっている人と、システムバイオロジーをやっている人っていうのは、まだうまく連携してないと思うんです。
例えば僕らが今度SCIでそういうのをPRするわけなんですけれども、どうPRしていったらいいのか。実際ご自分が、こういう場にいるものとして、どういう人材がどういう興味をもって入ってくれたら面白いかな、っていうふうにお考えですか。
塩見えーっとですね・・・
大学院生ぼくはようやくドクターにすすんで、ようやく、そこらへんが重要だな、っていうのがようやく分かるわけですけれども、学部生だとやっぱりまだわからない。
塩見まぁぼくにとっても難しい問題なんですが、私がよく思うのは、例えば日本の場合、バイオインフォマティクスをやってる人と、生命科学をやっている人たちが、別々なんですよ。
で、バイオインフォマティクスをやってる人っていうのは、僕の偏見だけじゃないと思うんですが、単なるコンピュータオタクなんです。生命科学、つまり、生物をよくわかってない。
データ集めだけをやっていても、そこからは面白いモデルまたはコンセプトっていうのはでてこない。
少なくとも自分は実験をやらなくても、実験をやってるラボにいないと、単なるデータ処理に終わってしまうと思うんですよ。
ウェットな実験をやってる人たちと、直接的に交流して、生物っていうのはこういうもんなんだ、こんないい加減なもんなんだ、っていうことを考えつつやっていかないと、全然違う方向にいってしまう。
何の新しいコンセプト、またはモデルも出てこないと思います。 生物をやっている、または生物に興味があって、かつ算数とコンピュータが使える人に入ってきてほしいというのは、ぼくのひとつ、大きな希望ですね。
大学院生こういう新しい学問分野に新人をリクルートしてくるために、例えば大学の講義にいれこんでいくとか、そういうような動きっていうのは学会かなんかにはあるんですか。
塩見これから重要になってくると思いますけど今はまだない。
学生海外はどうですか?
塩見アメリカでは、一つのラボの中に、自分で実際RNAならRNAを扱いつつ、コンピュータもやってる人がいる。RNAっていうのが物質としてどういうものかを知りつつ、その2次構造の予測とかいろんなことをやってるから、役に立つ。ちゃんと次の研究につながるようなモデルとか、アルゴリズムっていうものを作っていくことができると思うんです。
でも日本の多くの場合は、その2つが全く分離しているんです。しかも、分離しているからやることが遅いんですね。例えばRNAの予測にしたって、こういう構造をするって分かった時点で、いろんな人が飛びつきますよね。でも、分離しているから、今なにが重要かっていう認識を共有できない。
ぼくたちは新しいグループとして、2つをくっつけたグループを作ろうとしてるんです。
井上まさに研究室のグループを我々が申請していたとこなんですよ。 RNAの実験をしている人は、もちろん中心軸にいるんですけれども、いろんなバイオインフォマティクスとかシステムバイオロジーの人が入ってくるのを計画して、今実際に審査にかかってるんです。期待してほしい。
志村そういう視点がないと、今膨大なゲノム情報がでてますが、やっぱり役に立たなくなっちゃうんですね。そういうものをシステマティックにとりこんでいく操作が絶対に必要なはずですよね。それがとくに日本では非常に欠落している。

人気急上昇!RNA研究

学生アメリカで、実現しているバックグラウンドっていうのは何なんですか?
志村日本では、給料は、例えば、塩見さんは徳島大学から給料もらい、井上さんは神戸大学から給料もらう、というようなシステムですね。ところがアメリカでは、給料っていうのは、先生の研究室にどーんと出て、そこからだしますね。先生がシステムバイオロジーをやっている人を欲しいと思ったら、そういう人を金でリクルートできるわけですよ。私は、そういうシステムの違いがあると思います。
塩見アメリカの大学には、制度に、そういう意味での柔軟性があると思うんです。
立花今日本全体でのRNAの大きなプロジェクトとして、どういうものがでているんですか。
志村RNAの特定領域研究は、25年前から続いてるんです。私は多少裏から支えてきました。四代、20年以上続いたんです。
私がRNAをやっていたときは、RNAのバイオロジーというのを表にだしてやってる人っていうのはいなかったんです。
私は裏街道を歩んでいたわけなんですが、今は逆に表街道になって、特定領域研究っていうのが続いてますね。それだけじゃなくて、突然いろんな省庁がですね、RNAに目覚めてきました。経済産業省が、機能性RNA研究にかなりの額を出してますね。
そしてもうひとつはJSTが、今年新しくお金をだします。
それから理研の人で、ncRNA同定をやっているグループがいますが、そこには5年間で30億円くらいの金がでているはずです。
どれだけ研究が進むかは、必ずしも楽観はしていませんが、研究費の申請が通って、なんとかお金をもらえたらいいなと思います。
立花しらみつぶしに可能性があるものをさがすっていうのも同時進行するんですか。
塩見そうですね。その手法としてもRNAiっていうのを使ってて、例えば人の場合2万2千、たんぱく質をコードする遺伝子がありますが、全てにたいして、siRNAをデザインして、しらみつぶしにしていく。
その一方では、アッセイ系を作っておく。プレートの中に細胞を入れといて、例えばある遺伝子の発現を抑えたときに、細胞が死ぬか死なないかを調べる。それで、いわゆるアポトーシスに重要な遺伝子をとってくるとか、いろんなことを今やってます。
立花ちゃんとした薬になってるもの、あるいは、その前段階の候補みたいのはでてるんですか。
塩見でてると思います。今年1月の末に、いくつか製薬会社がやっていました。
もう一つ。siRNAのライブラリを使って、pathwayに関わる新しい遺伝子を見つけたという発表があります。この遺伝子というのは、このpathwayに関しては新しい遺伝子なんだけど、昔からの研究で、実は、あるpathwayに関わることが分かっていた。こちらは、どの薬剤で抑えられるかがすでに分かっている。しかも直接のターゲットのタンパク質が分かってる。
2つのpathwayが結びついて、実はこの薬剤が、新しいpathwayの経路にも制御できるんじゃないかというので、やってみると、ポジティブなデータがでたんですね。

そういう仕事がすすんでます。
今では、一気に一時間くらいで、数千の遺伝子のスクリーニングができる。見たいものさえあれば、小さなRNAが何をして、その標的がどういうものであるかっていうようなことが見えてくる。
立花相当な資本力がいりますよね。
志村会社では無理かもしれませんね。
ベンチャーがうまく立ち上がれば、会社もこしを上げるかもしれませんね。
立花日本は国家戦略的には、どうしたらいいと考えられてるんですか。
志村日本では長らく、RNA研究っていうのは、マイノリティーだった。金を工面してやってきたわけです。だけどここにきて政府がRNA研究の重大さに気づいてきた。
莫大なお金が出始めた。
昔はRNA研究にはわずかな人しかいなかったんですけども、今では研究者の数が急増しているんです。
立花大体どれくらいですか。
志村今RNA学会の会員が6,700人くらいです。作ったのは、99年。
そのときはほんとにわずかだった。
井上最初は100人弱でスタートしたのが、毎年100人ずつ位増えてます。
志村年々急増していまして、しかも医学の人とか、脳研究者とか、いろんなバックグラウンドの人が集まってきているんです。これからもっと増えていくでしょう。
国際的には、もっと前から、RNAsocietyというのがあるんです。
毎年発表だけでも600くらいあります。
『RNA』という雑誌もでてる。それも部数が急増してきました。ジェームズワトソンが長らく会長をしていたんです

DNA→RNAへ

志村あの、DNAっていうのは非常に硬いもんですよね。あまり柔軟で変化してしまうと困るわけですけれども。
さっきご質問があったように、染色体にはDNAだけじゃなくて、タンパクがいろんな形につつみこまれている。
RNAは非常に柔軟で、いろんなものと対応できる。タンパク質とも対応できるという特性があって、機能には必ず関与している。
立花かつてはRNAっていうのは、生命の世界で、主役じゃなくて、脇役と考えられてたのが、今どんどんRNAのほうが主役なんじゃないかと考えが変わってきてますね。
志村そういうことですね。まさに生命現象のキーになる分子として躍り出たんですね。前も、そういうことはあったんですが、あくまで主体はDNAでした。
井上実は、RNAワールドっていって、遺伝子自体はRNAが遺伝情報になって、自分自身が触媒活性をもって、っていう、過去はそういう世界で、今見えてるRNA遺伝子はその遺物だっていうのが、わりとずーっと今までの研究でした。ところが今まさにゲノムの考え方もどんどん変わってきて、RNAっていうのがなくては生命は語れないというところにきています。
志村いろんな高次機能、例えば発生分化などに、いろんな形でRNAが関わっていることがこれから明らかになるんでしょうね。面白くなる。
私がそのとき研究者でいられないのは大変残念なんですけれども、彼らは非常にそういう面ではラッキーなんですよ。
立花先ほど、DNAは硬い構造だとおっしゃった。だけど、かたさだけだと見えない生命の本質的なやわらかい部分が、RNAの果たす役割が分かってくると、見えてくるんですね。
志村そうですね。そういう言い方ができますね。
立花昔RNAワールドがあって、今残ってるのはその名残だと考えられてましたが、こういう話を聞いてると、今の生命世界そのものが、RNAワールドである、という感じがしますね。
志村そうですね。そんな感じですね。RNAワールド2かもしれませんけど。昔のRNAワールドと区別して。
編集者DNA派っていうのは斜陽化しているんですか。
志村そういうことはないと思います。理研のグループなんかはですね、もともとDNAのグループだったんですね。ゲノムからどんなmRNAができるかを調べていた。mRNAだけだと調べるの大変ですから、相互DNAを調べたわけです。すると、タンパク質を作らないような配列のRNAが一杯でてきた。
ここで、RNA研究に入っていったわけですね。
DNAがマイノリティーになったということじゃ決してないです。DNA研究をしている人たちの中から新しくRNA研究に参加する人もいる。
編集者DNAの研究はほとんど終わったといえるんですか?
志村いやいや、まだですね。先ほど染色体っていうお話をしましたが、DNAの本当の研究はまだこれからだと思いますね。
細胞の中では、染色体、というかDNAが重要なわけですから。高次なDNAの構造と機能という観点からの研究がこれから大事になると思いますね。
立花結局、染色体の折りたたまれた形とか、そこに関与するヒストンとか、色々そういうものの機能が絡んでくる。そしてそこにもまた細かい小さなRNAかなんかが関与してくる。
塩見今まさに先生が言われた通りで、染色体がヘテロクロマチンといわれる構造をとる、つまり、不活化させるんですが、不活化させる領域を決める特異性っていうのはどこから来るか。
なにがそこを不活化しましょうっていうのを決めているのか、ということと、そのための、特異性を決める分子として、どうもやっぱり小さなRNAが作られているらしいっていうことが最近分かってきました。
それが、ひとつには、不活化されるんだけれども、不活化されるためには、まず転写させなければいけないっていう現象があって、つまりヘテロクロマチン化されるためには、最初の一歩は、その領域の転写なんですよ。つまりRNAが作られる。
で、そこから作られたRNAが、最終的に小さなRNAに分解されて、その小さなRNAが、そういう染色体を不活化(ヘテロクロマチン化)するための遺伝子を修飾するような酵素やDNAを失活するような酵素と複合体を作って、まぁ鮭が自分が生まれた川に戻るっていくように、自分が作られたところに、戻っていく。
で、そこを不活化することが分かってきたんですが、それがひとつの重要な特異性だと思います。
もちろん、他の部分の転写は当然起こっているわけですから、転写が起こってて、不活化されている。
ヘテロクロマチン化されているところと、転写が起こっているがヘテロクロマチン化されていない部分との根源的な差っていうのを説明できるかもしれません。
志村それはやっぱりプログラムの中に含まれているはずなので、どこがヘテロクロマチン化されるかということは、ランダムに起こるんじゃなくて、ある決まったプログラムの下に起こっているでしょう。
立花そうすると大筋分かった生命世界の構造っていうのが、まだまだ分からないことだらけということですね。
志村全ては分かっていない。これから高次の生命現象が化学の問題で解ける、というのでは必ずしもないんだっていうのが、分かってきた。非常に面白くなってきましたね。 ダイナミックな研究がこれから行われていくと思います。
立花今こう、お話を伺っていると、この生命世界を人間の言語世界に置き換えると、遺伝子の単語みたいなものですよね。大きなプロジェクトの発端が分かれば言葉の世界が分かると思っていたら、じつは助詞と助動詞がくっついただけで正反対のことがやっぱり起きるわけですよね。
志村うん、そう。
立花その小さいRNAの種類の多さっていうのは、助詞と助動詞のバラエティがたくさんあるのと同じですね。
志村それは大変うまい表現だな。使わせてもらおうかな(笑) いや、ほんとそうなんですよ。
ですから、もう分かったと思っていたんですけども実は分かっていなかった。
さっきおっしゃいましたジャンクDNAなんていうのは、ようするによく分からないからジャンクDNAっていっていたところもあるんですね。
それがどうもジャンクはジャンクではなくて、意味のあるものだった。
ジャンクといいながら、やっぱり本当に意義がなかったなら、進化の過程で淘汰されてしまうと思うんですけども、それがやはりずっと生き残ったのは何か意味があるんじゃないか。

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