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立花隆ゼミについて

Webサイト“SCI(サイ)”は、立花隆ゼミ(または単に立花ゼミ)によって、2005年に開設されました。

立花ゼミは、評論家・ジャーナリストである立花隆が教養学部で開講していた全学自由研究ゼミナールです。ふつう教養学部のゼミは一学期間で完結しますが、“SCI(サイ)”の開設と発展を目指した立花ゼミは、学期をまたいで2006年度の冬学期まで、1年半続きました。

もちろん各学期でメンバーの入れ替わりはありましたが、基本姿勢は当初からずっと変わっていません。それは、Web上に影響力・存在感のあるサイエンス・メディアを作るため活動すること。下に掲載されている文章は、2005年と2006年の冬学期に書かれました。それから時間は経ちましたが、今も通用する考え方が示されているため、載せ続けています。

なお、立花ゼミ自体は、2007年夏学期以降もテーマを科学に絞らず形態を変えて続けられる予定です。それは第三次立花ゼミとでも言うべきもので、サイエンス・メディアを作ってきた第二次立花ゼミのさらなる発展形です。第一次立花ゼミは、1996年度の夏学期から1997年度の冬学期まで開講され、Cyber University坂村研究室内のミラーサイト)というWebサイトを作ったりしていました。その成果は何冊もの本にまとまっています。

立花隆in松田ゼミについて

正式名称は全学自由研究ゼミナール『「科学メディアサイト」を運営しよう』です。松田ゼミに立花隆先生を招聘するかたちで開講しています。

このゼミは、下で立花先生が詳述されている立花ゼミの活動を引き継ぎ、2006年9月に新しいメンバーを受け入れました。そして同年12月初旬にWebサイト“SCI(サイ)”の大改装を行い、「ゼミ生が科学に関する取材記事を配信するサイト」だった“SCI(サイ)”は「取材記事を軸に、誰でも科学についての議論ができるサイト」に変貌を遂げました。

Wikipediaの成功を見ても分かるように、インターネットは、多くの人が時間・場所・立場を越えて協力できるという特徴をうまく活かすことで、はじめてその真価を発揮します。

今回の改装を機に、“SCI(サイ)”は、立花ゼミが一方的に記事を配信する形式を離れ、寄稿を受け付け、さらに多くの人へ協力を請い、誰でも記事にコメントできるような、科学についての分野横断的なコミュニティサイトを目指します。

デザインもさっぱり綺麗に生まれ変わったSCI(サイ)を、これまで以上に、よろしくお願いします!

2006/12/5, 立花ゼミ幹事 加藤淳 as arc@dmz

立花ゼミについて

正式名称は全学自由研究ゼミナール『先端研究現場へ行こう』です。

いろんな研究現場を次々に見学しては、その見学記をみんなで書いて、そのうちそれをまとめて一冊の本でも作ろうかということではじめたものです。

これは、私が大学院の総合文化研究科「科学技術インタープリター養成」プログラム(このプログラムについて知りたい人はこちらへ)の特任教授になったのを機に、教養学部学生ともいっしょに何かしてみたいと思ってはじめたものです。

九年前の一九九六年、私が先端研の客員教授だった時代に、やはり教養学部の全学自由研究ゼミナールの枠で、「調べて書く」というゼミナールを開講したことがあります。学生たちとともに、『二十歳のころ』(新潮文庫)など、三冊の本をいっしょに作りました。そのインターネット版のようなことをやりたいと思ったわけです。

参加している学生は、文1、文2、文3、理1、理2、理3さまざまで、いまのところ約四〇人が参加しています。

私が大学院のプログラムと学部のゼミと両方の教官を兼ねている関係上、「科学技術インタープリター養成プログラム予備修習生講座」と銘打たれていますが、これは修辞上の表現で、大学院のプログラムと学部のゼミは、制度上何の関係もありません。このゼミに入ることが大学院のプログラムに入るための前提になるということもなければ、ゼミに参加していたからといって、大学院のプログラムに入りやすくなるということもありません。大学院のプログラムは競争が激烈で、一切の差別なく大学院の全課程から平等で厳しい試験(筆記と面接)で選抜しています。

制度上の関係はありませんが、志の上では関係が深くあります。

それは、日本のサイエンスの研究現場と一般社会を結ぶ核になって、ほんとうの意味での日本の科学技術創造立国の核になりたいという願いです。

具体的には、みんなで大きな科学技術総合メディア・サイト(「SCI(サイ)」)を作ろうとしています。

この総合メディア・サイトは、いってみれば、巨大な科学雑誌のようなものです。

このサイトにくれば、いまサイエンスがどのような状況にあり、どの方向に発展しつつあるのかが領域別に、全体を俯瞰するような形でわかり、かつ、一般の人々の科学に関するさまざまな疑問点に何でも答える巨大なQ&Aページのようなものを作ろうと考えています。

同時に、どのような問題点についても、そこを掘り下げてより深い知識を得たいとき、あるいはその問題をより広いパースペクティブのもとに置いて考えを深めたいとき、どこに行けばよいのか、すぐわかるような道案内付きの巨大リンク集を作りたいと考えています。

このような巨大Q&Aサイトと巨大リンク集を作りあげられたら、誰にでも利用可能で、当座知りたいことが何でもわかり、どちらの方向にもどんどん知識を深め広めていくことができるわけです。それによって、サイエンスの世界の総合案内所ともいうべき巨大公共メディアサイトを作ることができるのではないかと思っているわけです。

もうひとつ考えているのは、科学の世界の総合ニュース・サイトです。そこに行けば、いま科学の世界で起きている重要なニュースにどんなものがあるかがすぐわかり、その背景にある事情を理解でき、これからの展望がすぐ得られる、そのようなサイトです。

これまたリンクのかたまりにして、深さ方向、広さ方向両面において、知識の拡大が容易であるようなサイトにしたいと思っています。

もちろん、このような巨大サイトを、ゼミの学生の力だけで作ることはとてもできません。とりあえず私たちがやろうとしていることは、プロトタイプを作りあげ、この基本アイデアの有効性、有用性を実証することです。

それができたら、周辺の人をどんどんまきこんで、より大きなスケールで有効性、有用性を実証し、さらにその延長上では、サイエンス・コミュニティ全体の協力を得て、それをサイエンス・コミュニティ全体が共有する公共メディア、いやもっと広くいうなら日本全体の公共メディアとすることを考えています。

私がなぜこんなことを考えているかというと、いま、日本の社会でいちばん困ったことは、サイエンス・ジャーナリズムがほとんど死んでしまったというか、半死半生の状態にあるということです。

もちろん、日本でサイエンス・ジャーナリズムが全く死んでしまったわけではありません。若干の科学雑誌は残っているし、伝統的な大メディアのサイエンスのページもそれなりに残っています。しかし、初等中等教育で、理科離れ、科学離れが著しく進んだ結果、日本の社会の一般大衆向けサイエンス情報発出量は著しく低下し、グローバル・スタンダードのはるか下の方、OECDなどの調査によるとサイエンスに関心を持つ人たちの数が世界の最低レベルにずっと張り付いたままです。

サイエンスに対する関心がそんなにも低いため、日本は、サイエンスのさまざまの分野でヨーロッパ、アメリカと並び、世界の三極の一つとして立派な業績を数々上げているのに、それらの業績についての日本メディアの報道量があまりにも少なく、日本人の多くはほとんどその事実を知りません。

メディアが報道しても一般の関心が低くて読む人がいないためです。つまり「一般の関心の低さ」と「メディアの報道量の少なさ」が悪循環を起こし、容易に抜け出すことができないトラップ状態にはまりこんでいるわけです。

サイエンスの世界はいわば通年でオリンピックを開催をしているようなものです。日本の選手たちは、そのオリンピックでそこそこいい成績を上げているのに、応援団がほとんどゼロなので、選手たちの士気もいまひとつという状況がつづいています。

科学技術創造立国というスローガンに私は大賛成ですが、このままでは、とてもそのスローガンを実現することはできないだろうと思います。

日本のサイエンスを活性化するために何より必要なのは、サイエンス・メディアの復興です。

とはいっても、その復興は容易ではありません。

サイエンス・メディアがつぶれた遠因をさぐると、それは結局、経済的に引き合わないということにつきます。

サイエンスに「一般の関心が低い」→「報道量が少なくなる」→「一般の関心がますます低くなる」→「サイエンス・メディアが経済的に引き合わなくなってつぶれる」という悪循環が起きているわけです。

この悪循環から抜け出すためにはどうすればよいのか。

私は基本的には、コマーシャルベースで採算を合わせることをめざす、民間サイエンス・ジャーナリズムの復興はもはやほとんど無理と思っています。そもそも科学ジャーナリズムの世界でコマーシャルベースで採算を合わせようとすると、内容的にも問題が起きます。どうしても大衆の関心を引きつける話題ばかり扱うようになり、宇宙、脳、ロボット、医療などといったところに話題が集中してしまいます。サイエンスの現場にいる人たちが、これが大切と本当に思っていることがなかなか報道されない、論じられないということになります。

そうならないためには、サイエンス・コミュニティの人々が、自らメディアを持ち、自ら発信者になっていくべきだと思います。

そんなことが可能かといえば、可能です。

インターネット時代の今日、発信しようと思えば、誰でも発信者になれます。誰でも自分たちのメディアを作ることができます。

難しいのは、そのコンテンツに内容を持たせることと、できるだけ多くの視聴者を獲得して影響力あるメディアに育てることです。

その二重の難しさを承知の上で、我々はそのようなメディアたることをめざしていると宣言します。

まだまだあらゆる側面で我々は力不足ですが、日本のサイエンスをとりまく環境がこのままでいいはずはないという憂いの心とこの現状を少しでもよい方向に変えるために、自らの行動で何とかしたいという情熱とエネルギーだけはたっぷり持っているつもりです。

どうか、皆々さま方のご指導、ご支援のほどよろしくお願いします。

2005/11/04, 立花隆

立花 隆(写真) 立花 隆
1940年5月28日長崎生まれの評論家・ジャーナリスト。著書多数。1996年東大教養学部で「調べて書く」ゼミ―いわゆる立花ゼミ―を開講。2005年同大特任教授になったのを受けて二回目の立花ゼミ「先端研究現場へ行こう」を開講。