瀬名秀明氏作品
「デカルトの密室」 (2006)
もしロボットが人間と同等の知能を持つようになり、人間とロボットの境があいまいになったとき、どうなるのであろうか?
本書「デカルトの密室」は、「これは『知能(インテリジェンス)』についての物語である」という語り手のロボット・ケンイチの言葉によって始められている。彼は我々と同じように「知能」を持ち、考えることができる。ケンイチの開発者は、工学者であり小説家でもある尾形裕輔だ。ケンイチは本を読み、自分も裕輔のように小説が書いてみたいと望んでいる。また彼は時折、裕輔が書いた小説を読み、そこに自分が語り手として登場しているのを見て、そこに描かれている自分が自分とは違うものであると感じ不安になる。だが、これらがケンイチが本当に抱いている感情なのか、それとも裕輔の小説に出てくる一節なのか、知る術はない。ストーリーは、多くのロボットに関する著作を取り上げながら展開していく。知能とは何か、そしてケンイチと我々を閉じ込め続ける「密室」とは何か、めくるめく謎の物語である。
結末に、もう一人の語り手・裕輔が登場し、冒頭の文章を再び繰り返す。ここに登場する『知能』はこれまでの知能ではなく、我々が次の世代へと伝える、模倣子としての『知能』なのである。
「パラサイト・イヴ」 (1995)
第二回日本ホラー小説大賞(1995年)を受賞した、氏のデビュー作。1997年に同タイトルで映画化。
大学でミトコンドリアの研究をしている生化学者・永島利明は、交通事故で亡くなった妻・聖美の体から肝細胞を取り出して研究室で培養することを思いつく。だがその細胞内にあるミトコンドリアが怪物化し、人間たちを操ろうとする。その目的は、細胞生物のDNAであふれるこの世界をミトコンドリアDNAのものにすること。進化の頂点に立つわれわれを蹴落とそうとするミトコンドリアを止めることはできるのか。
ジャンルとしてはホラーであるがSFの要素が非常に多く、綿密なリサーチに基づいたストーリー構成や、膨大で専門的な科学知識を用いた内容、といった瀬名氏のスタイルが見て取れる。
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