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日本における科学技術政策決定システム

三種類の研究

 では、研究にはどういったものがあるかという話に移りたいと思います。配布資料の22ページをご覧ください。

 まず「基礎研究」はどこで行うかというと、これは大学で行います。この研究の特性は人間が本来持っている知的なcuriosity、つまり好奇心によって支えられているという点であり、助成機関は今の文科省や日本学術振興会のような旧文部系組織です。

 次に一番下に書いてある産業・技術開発についてですが、これはたとえば燃料電池開発とか自動車の開発を考えれば分かりますように、企業が主にやっています。そして企業の研究開発を援助する助成機関として、経産省、総務省などの各省庁がある。

 最後に、基礎研究と産業技術研究開発の中間に位置するもの、これを仮に応用あるいは試験研究と名づけるとして、これを担当するのが国立研究所等の組織です。これはまさにミッションによって導かれているものでありますから、特性をあげるとすればmission orientedという概念がこれにあたります。

 助成機関は、同じ文科省の中でも基礎研究、学術研究を支援するのが日本学術振興会であり、応用・試験研究開発を担当するのが科学技術振興機構であります。

「学術」という概念

 ついでですので、ここで「科学技術」と「学術」というふたつの概念の定義をはっきりさせておいたほうがいいだろうと思います。

 配布資料の23ページをご覧ください。旧文部省、それから文部科学省は「学術」という言葉を英語に直すときにどう訳しているのかといいますと、次の2通りが少なくともあるようです。

 ひとつは単純にscience。例えば日本学術会議ではこの訳です。

 それからもうひとつはpure science。これは科学技術に対抗するというか、その違いを際立たせるためにこう訳す。

 あるいはbasic scienceとも。とにかく大変苦労しているということであります。

 ではそもそも「学術」という日本語はどこから出てきたのかといいますと、法令用語としては、明治19年が初出だと思われますに、この年に出た帝国大学令には「国家枢要ニ応スル学術技芸ヲ教授シ、其蘊奥ヲ考究スル」という言葉が載っておりまして、ここではじめて出てくる。

 で、『広辞苑』を引きますと、1に「学問と芸術」が出てきまして、2に「学問にその応用を含めて言う語」という説明がついておりますが、これを私は両方とも間違いだと思っております。

 私はこれをArts and Scienceの訳だと思っております。

 なぜかといいますとまずこの「学術技芸」という表現から、「学術」と「技芸」を区別していることがわかるわけでありまして、つまり応用に関することはこちらの「技芸」であります。ですから、「応用」に関することを除いたところ、つまりpure scienceと言いますか、basic scienceといいますか、こっちの部分を「学術」と考えたのでしょう。

 ただし、英語では基礎的な学問を言う際にただscience とは言わないわけでありまして、science and humanitiesと必ず文科系のことを加えて言うわけです。アメリカではそれをarts and scienceと言います。

 例えばハーバード大学のカレッジと言うのは何を教えるところかと言いますと、arts and science。で、その上に、そのカレッジのうえにロースクールとかのプロフェッショナルスクールが乗っている訳ですね。最も大事な、大学的なところ、職業教育でないところはarts and scienceなんですね。

イギリスではscience and humanities。こういう感じ。でおそらくこのartsというものの訳にこの「術」を持ってきたのだと、こういう風に私は思っておりまして、とかく「学術」というわれわれが普段使っている言葉、旧文部省が伝統的に使っている「学術」という言葉はこれですよ、ということです。

「科学技術」という概念

 で、「科学技術」というのはscience and technologyと訳すのが定訳になっているようでありますが、私はこれにも疑問を持っております。

 これはscience based technologyあるいはscience driven technology。もっと端的に言えばtechnologyが正しい訳ではないか。

 technologyというのはギリシア語に由来するtechnoに同じくlogiaというギリシア語に由来するlogyという知識体系を表現する語尾を引っ付けたものです。ということはまさにscience basedなtechniqueだと、こういうことです。

 technologyという言葉が誕生したと言うことは結局技術がscienceと結びついたということです。ですから、私は一言で科学技術はtechnologyだと思っております。

「科学技術」と「学術」の分離

 これまで私は「科学技術」と「学術」というふたつの言葉の意味を説明してまいりましたが、依然として文部科学省では科学技術政策と学術振興政策はふたつ別々に並行しています。

 配布資料の24ページをご覧ください。旧文部省と旧科学技術庁が合併いたしまして、研究に関するものは俗称研究三局が担当しておりますが、一番上の「科学技術・学術政策局」と言う名前が端的に示しますように、科学技術と学術というのはひとつにはなっていない。

 その下の研究開発局ですが、これはもっぱら旧科技庁系。先程出てきました「国家基幹技術」を担当しているのもここであります。

 そして研究振興局は前のふたつが合わさったようなものであります。実質的に見ると7:3くらいで旧科技庁系のほうが多いかな、といった感じでありますが、局長は旧文部省系の人が歴代就任しています。

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