日本における科学技術政策決定システム
以下は、石井紫郎氏の講演後に行われた質疑応答の様子です。
学生からの質問
―――先ほど強調されていた「学術」の定義に関連して、大学が進むべき道について石井先生がどのようにお考えになっているかお尋ねします。
―――まず一つは研究についてです。先程のご説明の中で学問の自由が取り上げられていましたが、昨今の大学も資本の論理に偏ってきているのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。
―――二つ目の質問は教養教育についてです。先生は15年ほど前に駒場の教養教育改革に関わりになったと思うのですが、「教養」という言葉そのものに対して先生が抱いていらっしゃるお考えをお聞かせください。
研究者の活動範囲
先程、私は研究を三つのフェーズに分けて説明いたしました。もう一度配布資料の22ページをご覧ください。
これらは基本的に一人の研究者がどこかに張りついて、よそには絶対に出て行かないというものでは決してない。
大学の先生であっても、基礎研究をおやりになる一方で応用・試験研究開発に取り組んでいる方も、少数ではありますがいらっしゃいます。具体的な例を挙げると生産技術研究所や、それから今はもう文部科学省の研究所になっているけれども宇宙航空研究所などがそれに当たります。
そもそも、零戦を作ったのもすぐそこの先端研の所(東大駒場第二キャンパス)にかつてあった研究所ですしね。
いずれにしても、一人の研究者が基礎研究と応用・試験研究開発の間を行き来することは大いにあると思います。
研究者のモラル
ただ、絶対にしてはいけないのは、たとえば一人の先生がベンチャーを立ち上げて現実の商品を開発して商売するということ。このことは、アメリカでは許されているし、日本でも最近は推奨している向きが多いわけですが、アメリカでさえ「それは大学の外でやりなさい、大学のキャンパスの中ではやっちゃいけない」と言っている。
といいますのも、これはconflict of interest、利益相反と訳しますが、大学の研究者としてのinterestと、ベンチャー企業を儲けさせようというベンチャーの主催者としてのinterestがしばしばぶつかるからなんですね。
このconflict of interestというのは非常に神経質にアメリカでも言われている訳でして、そこはきちんと仕分けをしていかなければならない。
もちろん企業の研究者といっしょに研究するという、共同研究自体は別に構わない。ですけれども、自分が大学にいるんだったら結局研究者としてのinterestを基本に据えて、ベンチャー主催者としてのinterestに関するものは大学の中ではやらない、あるいはconflict of interestに抵触するような行動は厳に慎まなければならないという、やっぱりモラルをきちんと確立しなくてはいけない。
研究とカネ
まあ俗にいえば、お金の論理で大学、あるいは基礎研究・学術研究が動かされるようでは困るということです。
ただ実際には、今の理科系の研究の大半はお金がなければできない。ですからそこは、日本学術振興会がしっかりしなければならない。そういうことになるわけです。
ただ、大学の先生でも科学技術振興機構からお金をもらっている人は一杯いる。
学術システムセンターの研究員でここの仕事を私と一緒にやっている人の中にも、実際にここから億単位のお金をもらっている先生がおられるのですが、軸足は基礎研究にある。
これがものの考え方の基本なのであります。
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