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THE GREEN REVOLUTION in MARS

22億年前、地球に"酸素革命"という名の大革新を起こしたシアノバクテリアに、もう一度登場してもらおう。今度の舞台は、火星だ。

赤茶けた極寒の地:火星

火星は、平均気温-58℃の極寒で極乾の地だ。赤茶けた火星を見ると、緑を作るなんて無茶だといいたくなる。

しかし実は、火星の最高温度は27度にもなる。 もう一つ、ここで注目したいのが、火星の赤道だ。 赤道のくぼちでは、生命に不可欠の水が流れたあとが確認されているが、この下には氷がある。ドーム状の巨大レンズを作り、氷に焦点をあて、太陽の熱を集めれば、氷がとけて、わずかにしろ水がでてくるだろう。 しかも極冠(北極)にはドライアイスがあることが分かっており、二酸化炭素は豊富だ。 こうしてみると、火星に緑を作るのは、それほど無茶なプロジェクトではない気がしてくる。

生命を育む土

しかし、これだけではだめだ。火星への移住に必要なものはなんだろう。地球にあって、火星にない、生命に不可欠のもの、それは"土"である。 土を作るのは微生物だ。10の27乗ともいわれる天文学的な数を誇る土壌微生物を無視して、我々の生命は語れない。

実は土というのは、大気組成の維持に相当の影響力を持つ。 地球上の土には1グラム当たりに10億から20億のバクテリアがいる。呼吸活性が盛んで、ものすごい量の酸素を吸っている。地球の酸素バランスを考えるときに、土壌表面(平均10数センチ)での酸素吸収、炭酸ガス放出は無視できない。

土の威力を物語る、次のような話がある。 アメリカのアリゾナにミニ地球、"バイオスフィア2"を作る計画があった。ヒト2人とヤギ2匹が入り、閉鎖した環境内で、栽培した植物が作り出す酸素や、食料だけでクラスという計画だ。しかしこれは大失敗に終わった。 急に酸素濃度がどんどん下がって、人が死にかけた。一気に窓を開け放して、実験失敗。 ガスの計算で、土壌による酸素吸収を考慮していなかったためだというのだ。どれだけ土壌表面でのフラックスが大きいかが分かる。

土壌作りの秘策:シアノバクテリア

火星に土壌を作る。これには秘策がある。 シアノバクテリアは、あらゆる極地に存在する。 砂漠という究極の乾燥地でも、温泉という究極の高温地でも、南極という究極の寒さのなかでも。 シアノバクテリアが、この30数億年で培ってきたたくましさを利用しよう。

火星には多量の硝酸塩が存在することが分かっている。 我々は酸素を使って呼吸するが、火星では、酸素の代わりに硝酸を使えばよいのだ。 ところで呼吸というのは、実は酸素自体を受け渡しているわけではない。呼吸では有機物を分解してできた水素イオンと電子が、細胞内のミトコンドリアにある電子伝達系とよばれる一連の流れの中で、次々に電子を手渡して、最終的に酸素に手渡される。この、電子を手渡していく過程でエネルギーを生産していく。呼吸は、いわば、電子リレーなのである。 硝酸に電子を渡すようなバクテリアと酸素に電子を渡すようなシアノバクテリア、その両方を組み合わせ、何種類かのバクテリアをデザインして持っていく。そうすれば、個としてはうまくいかなくても、集団として生き延びて、火星の表面を覆うに違いない。 シアノバクテリアの生態系が確立すれば、土壌ができる。土壌ができた場所に種をまけば、植物が生える。

火星への運搬

シアノバクテリアの火星への運搬は、どうするか。とにかく軽いことが第一条件である。比重1という重い水は大量に持ってはいけない。 シアノバクテリアを乾燥させて火星に運び、向こうで水で戻して使えばいい。 最初のほうでも書いたが、シアノバクテリアのもつ乾燥耐性機構は強力で、100年乾燥したあとに、水にもどしても、すぐに光合成を開始するというのだから、問題ない。

写真:実際に火星にもっていける状態の乾燥シアノバクテリア

写真:乾燥したシアノバクテリア

JAXA宇宙微生物学研究班では、今のところ、宇宙ステーション内での病原菌の研究など、目下やらなければいけないことが山積みで、火星の緑化プログラムが具体的に進められているわけではない。

しかしそれでも、火星での緑化革命が、現実に近づいてきているのは確かだ。 宇宙で農業を営む日も遠くないだろう。

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