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種とは何か。
これまで何度か「種」という言葉を使ってきたが、立ちかえって種について考えてみよう。

種という概念には、いくつかの異なった考え方があるのだが、そのうち主要なものを2つ挙げる。生物学的概念としての「種」と、形態学的概念としての「種」である。前者は生殖隔離の有無で種をわける考え方であり、互いに交配可能であれば同種、交配不能であれば異種とする考え方である。つまり、子孫を残せれば同種、子孫を残せなければ異種とみなす。後者は形態の不連続性で分ける考え方であり、分類学で実際に使われているのはこちらだ。大雑把にいえば、同じ形なら同種、違う形なら異種、ということだ。形態の不連続性は、外部形態の違いだけでなく、細胞形態や交尾器などの内部形態の違いも含む。

しかしどちらの考え方にしろ事実はそう単純ではない。

例としてクワガタムシを見てみよう。
日本のルリクワガタの仲間にはルリクワガタ、コルリクワガタ、ホソツヤルリクワガタ、ニセコルリクワガタの4種がいるが、これらは大変よく似た形をしていて、以前は全て同じ種だと思われていた。

しかし、現在では、これらの生態は全く違うことが判明している。たとえば、ルリクワガタの幼虫は硬い材を好むのに対し、コルリとニセコルリの幼虫は軟らかいぐちゃっとした材を食べる。また、木の新芽に対する選好性も異なる。ルリはほとんど食べないが、コルリとニセコルリは、食害する。ホソツヤルリは少しだけ食害する。
よく見ると、外部形態も少しずつ異なっている。

写真4:ルリクワガタ、コルリクワガタ、ホソツヤルリクワガタ、ニセコルリクワガタ
余りに小さいので、虫自体にはピンがささっていない。

 

このように、本当は別種であるものを同じだと勘違いしている場合が相当ある。

逆に、同じ種であるものを別だと勘違いしていることもある。種はかなり曖昧なものなのだ。初めに述べた種概念のように、これは同種、これは異種、ときれいに分かれるものではない。

加えて、種の系統を考えるとき、交雑による遺伝子の浸透(種を超えて遺伝子が流動すること)や祖先多型の問題ははずすことができない。
祖先多型はやや分かりにくいので、ABO式血液型という遺伝子で考えてみる。自分の血液型がO型、父がA型、母がB型で、あるアメリカ人がO型だったとき、自分とそのアメリカ人が一番近いといえるだろうか。それはいえない。つまり、もともとの祖先の段階で、いくつかの選択肢をもっている。血液型の場合なら、A、B、Oだ。
遺伝子解析で生物の系統を調べる場合、普通は1つあるいは少数の遺伝子領域しか調べない。上のような遺伝子の浸透や祖先多型が、遺伝子解析で出てきた結果の考察を間違えがちなひとつの原因になるわけだ。

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文責:野村 直子

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