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地殻内微生物研究

次に、生まれてまもない研究領域、地殻内微生物研究にうつろう。

地殻内微生物研究に欠かせない掘削船の開発がどのように作られてきたかをまず見てみたい。

掘削船開発

15年前くらいから、ドリリングというアイデア自体は考えられていた。深海も未知の領域だが、さらにその下にもぐって、海底の下を掘ってみたいというのだ。

この研究の当初の目的は、マントルの物質がほしい、そして、地震が起きるメカニズムを探りたいという地球科学の研究が目的だった。

しかし、ちょうど高井さんが博士課程だった1990年代中ごろ、日本独自の深海掘削船を作っている段階で、アメリカで先に作られた深海掘削船を使った研究によって、海底下に大量の微生物がいることが分かってきた。これは面白い、この謎の微生物を知りたいという気持ちが大きな原動力となって、掘削船建造やそれを使った科学の推進に大きなはずみがついたという。

こうして、深海と、その下の地殻の研究は、同時並行で2000年くらいに両方が同じ学問体系にのってきた。

海底下に存在する最大の微生物圏

アメリカの深海掘削船を使った研究で、海底下の微生物の数が、我々が住む表層よりはるかに多い、ということが分かった。最大の微生物圏が、深海の海底下の地殻に存在したのである。

その大量の微生物が何をしているか、どんな生物なのかは、ほとんど分かっていない。地球にどういう影響を及ぼしているのだろうか。こうして、謎だらけの地殻内微生物の研究が始められた。

今ホットな研究テーマは2つある。1つ目は、非常に静かなところで生きている地殻内微生物とはどんな生物なのか、その生態をさぐる研究。2つ目は、メタンハイドレードを作る微生物の研究である。どんな微生物がどれくらいのスピードでどれくらいかかってメタンハイドレードを作っているのか、さっぱりわかっていないのだ。

"生きている"か、"死んでいる"か

一つ目の研究テーマは、今一番ホットな話題である。

微生物が大量に存在することは分かったが、問題なのは、今の技術・研究レベルでは、その微生物が生きているか死んでいるかが分からないことだ。

今の段階では、この微生物へのアプローチの仕方として、"生きている"と考えるアプローチと、"死んでいる"と考えるアプローチのふたつがある。

"生きている"と主張する人は、微生物は休眠状態にいる、もしくは、一万年に一回位分裂しているような、ものすごい分裂速度の遅い微生物であり、我々がきちんと観察していないのだ、という。

しかし、もう一方の考え方、つまり、"死んでいる"と考えると、つまらないように思えるが実は面白い考え方ができる。プレートは海嶺で作られ、左右に拡大して、最終的には海溝で沈みこんで地球の内部に戻っていく。このサイクルで一番長い部分が、太平洋であり、一億5千万年。海底には、一億5千万年分の海底があるわけだが、過去に生きていた微生物が死んで残ったと考えると、一億5千万年間の微生物を調べることができるというのだ。

ここで強調しておきたいのは、"海底下で"歴史が見える、ということだ。確かに海底下には、一億5千万年分の歴史しか刻まれていないが、陸上と違い、保存状態が圧倒的によい。陸上では、相当古いものが残っている一方で、風化やなど、様々な撹乱がおきて、連続性が悪く、保存状態も相当悪い。

しかも海洋底では、プレートが上にテープのように載っているから、一億5千万年分の連続した時代を、よい保存状態で見ることができる。地殻内微生物が"死んでいる"と考えると、微生物の立場から地球の歴史を連続して見ることができるというわけである。

歴史を見ることで、もたらされるものとして、今一番注目されているのは、過去の地球変動が見えてくるのではないか、という話である。例えば、今より気温が20度高かったと言われている白亜紀中期(一億年前ぐらい)の生態系が見えてくるかもしれない。恐竜などのどでかい生物はともかく、この頃の微生物の実態は何一つわかっていないのだ。

恐竜の研究は、スケールの大きさにわくわくするが、"太陽光を食べて"生きている生態系である点では、我々と少しも変わらない。我々と全く異なる食物連鎖系をもつ地殻内微生物は、やはり刺激的で興味深い。

メタンハイドレード

もう一つの研究テーマはメタンハイドレードである。

ここで注意したいのは、メタンハイドレードは、石油とは違うということだ。今我々が使用している石油のほとんどは植物プランクトンや植物が堆積してできたものだが、メタンハイドレードの多くは、微生物が作ったメタンによってできたものである。この種のメタンハイドレードは世界中に分布しているが、どの微生物がどこでどう作ったかはまだ分かっていない。

メタンハイドレードに関する研究のひとつとしては、それを資源として、つまり、新たなエネルギー源として使おうという目前の利益を追う研究もあるが、このメタンハイドレードの研究をサイエンスとして捉えると、もっともっと刺激的で面白くなる。

過去の地球環境の大きな変動の大きな原因のひとつに、このメタンハイドレードがあるのではないか、というのだ。

ぎょっとする話である。スノーボール仮説をご存知だろうか。これは、いまから6億年から8億年前、地球全体が寒冷化し、完全に氷に覆われていたという説だ。このスノーボールを最終的に溶かしたのが、メタンハイドレードから溶け出した温室効果ガスのメタンではと言われているのだ。

メタンハイドレードは、我々が思っている以上に強力で、地球を変えてしまうような潜在的なエネルギーを持っているに違いない。

以上の2つの研究が今一番注目されている研究である。

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