爆発的な研究スピード
立花 | 生命が複雑性を増していく進化の過程で、補助的な要素、つまりジャンク的な要素で、実は意味があって働いている部分というのがどんどん増えてきたというのがわかってくると、今までの生命の流れの見方っていうのが全く変わって、かつ複雑性の頂点にある人間の精神機能の部分にも関与してて、統合失調症のような病気すら、そこからでてくるかもしれない。 そういう話を塩見先生が論文で書いてらっしゃいましたよね。 ものすごいショックを受けた。 そういう方向にいく可能性はあるわけですよね。 |
志村 | これからの進歩は早いと思いますね。ものすごい勢いで進むと思います。 私が分子生物学に進んだころというのは、ワトソンとクリックが二重らせん構造を決めた直後でした。毎日毎日がものすごい発見の連続だったんですよ。毎年学会に行くたびに、とてつもない大発見の発表があるわけなんですね。 それが、大きな講演会じゃなくてね、小さい学会の発表会場なんかでなされていて、 急遽それを聞いて、シンポジウムをその場で企画したり。そういう時代だった。 同じようなことがこれからも起こると思うんです。大変大きな分野になると思いますね。 |
立花 | 今、この世界って言うのは誰が一番先に発見したかが一番重要ですよね。 どこでいつ発表しているんですか。どうも電子間で学会誌が発表しているみたいですが。電子メールで原稿をまず受け付けて、そこで発表すると。 |
塩見 | そういう感じになっていますね。 特許は別だとおもうんですよ、特許はどこで発表されたかが1番大きいですからね。 サイエンティフィックな意味での発見者って言うのは論文出した時点じゃないですかね。 ただ、技術なんかの場合は、たとえばPCRの場合は、どれが最初の論文なのか明確なのがないですが、一人だけにノーベル賞がいっているので、この業界で認められてたっていうのもあるかもしれません。 |
志村 | やっぱりジャーナルとして出すほうがいいですね。 やっぱりコンピュータでの電子化だけでは弱い感じがします。 |
立花 | 色々な生命現象の様々なステップのひとつひとつに関わる遺伝子がネットワークになって、ある程度の仕組みになっている。 その一つ一つのステップの中に、さらに大量のRNAが入り込んで、全体がネットワークとして、どんどん生命現象が進んでいく。そういう世界になってきている。 |
志村 | さっき、質問があった、システムバイオロジーというのが、最近はやり言葉みたいになってきつつある。 単に一つの遺伝子の正体をみても分からない。全体のネットワークの中でようやくわかってくるんです。 やっぱり、高次の機能の研究って、それだけの単独の研究ではもはやなくなってる。 脳の研究もそうですし、発生分化の研究もそうですしね。 それがこれからの若い研究者の課題となる。 |
RNAに介在するタンパク質の重要性
学生 | 大腸菌の話で、グルコース濃度の変化を感知して、グルコースを作るmRNAを増やすような小さいRNAが一杯いるってことですが、その感知する機能というのは、また別のRNAがやっているんですか? |
塩見 | そこまではまだ分かってない。 |
学生 | それは今の研究の流れでは、全部RNAだという視点で解析できるということですか? |
塩見 | いや、転写調節との組み合わせです。グルコースの濃度の変化を感知して、まず、いくつかの重要な転写因子がonになる、転写因子というたんぱく質があって、例えばリン酸化とか修飾されることによって機能し始める。 |
学生 | そういう流れを考えると、RNAが中心になっているっていう考え方でいいんでしょうか。 |
塩見 | えーと、そこまでRNAが中心だとは私は思ってないんですけど。 僕はやっぱり、転写調節が重要だと思ってるんです。転写調節と、転写された産物がncRNAとcRNA、二つに分かれる。ncRNAが、cRNAの発現をいろんなレベルで調節することもできるし、転写レベルでの制御もできる。だけど、こちらだけで動いているわけじゃなくて、やはり転写レベルでの制御とRNAレベルの制御、この二つが非常に複雑な生命現象、または複雑な細胞形態を生み出している。片方だけじゃなくて、この二つの密接な連携があって始めて多様性とか複雑さをうみだせるんじゃないか。転写調節は明確なon off調節であって、RNAレベルでの調節っていうのは、ファインチューニングだと思うんです。微調節が複雑であればあるほど、高性能な、または複雑なシステムを生み出していける。単純なon off制御の場合だったら、単純なものしか作れない。だから両方重要だということです。 |
井上 | さっきおっしゃった超分子マシーンみたいな、リボゾームにしろ、スプライシング装置にしろ、結局RNA自身が触媒活性を担っているっていう話なんですけど、じゃあ裸のRNAたとえばスプライシング装置のRNA。このRNAだけを取り出して試験管に入れて、スプライシングできるかっていったら、そんなことは絶対にない。つまり、他のたんぱく質、おそらくアクセサリー的にしか見えないだろうけど、実はそのたんぱく質との相互作用がやっぱりすごく現実に働いていることは確かです。それなしで、大きなスプライシングとかは起こりえない。中核に、RNAが重要なことは確かだし、だけどそこで一緒に働くたんぱく質も重要であることも確かです。 |
立花 | あの、リボソームがわかるまでにものすごい時間がかかりますよね。どうしてあんなに時間がかかったんですか? |
志村 | 介在する分子が、多かった。それぞれが特定のRNAとタンパクの複合体を作っている。最初は途方にくれるくらい困ったんです。 例えば、T細胞のサブユニット。これは日本人の野村正義さんがやった仕事ですが、分子をタンパクとRNAにばらばらにわけて、もう一回あわせる。わけるために必要だった薬剤を除いてしまうと、集合してまた機能をもつリボゾームになるんですよ。これは再構成の実験って、有名な実験です。 この実験の伏線になっているのは、アメリカ人の研究です。T4という非常に単純なウイルス。これはDNAとタンパクの塊なんですけれども、タンパクとDNAをはずしてやると、感染性のあるウイルスができるんです。 まぁこういうふうな再構成を利用して、リボソームの構造が分かるようになった。 構成する分子が同型であったことと、構造解析が出来るようになって、リボソームの全体像がわかるようになったんですね。 |
RNA創薬の可能性
志村 | RNAを創薬として使う場合のメリットというのは、やっぱり人工的に短い鎖をどんどん進化させていくこともできるし、それをたとえば培養細胞みたいな生きた細胞の上で簡単に試験することもできる。 えっと、結局4塩基の配列の並びにすぎないですよね。それを人工的に合成したRNAを大量に作ることができるわけ。で、その機能を持ったものをどんどん選び出すことが出来る、いろんなバリエーションをどんどんためして、例えばあるガン化した細胞に振りかけたときに、その癌を抑制するような、例えばある一定の長さのものをいろんなバリエーションで作って、それを順番にさっき言ったようなロボットで試す。そういうことはある程度可能なわけです。 それから、抗体のように使う。抗体っていうのはある抗原があって、それにくっついてブロックしたり、そういうタンパク質なんだけども、そういう働きを持ったもの、抗体を人工的に作るっていうのはすごく難しいんだけど、RNAを人工的にある特定の構造作ったものをまぶしてやればたんぱく質をブロックする。そういう働きをもったものを人工的にどんどん作り出してくるって言うテクニックも、いままさにやられている。 このテクニックには2種類あって、短いRNAというのは、外から振りかけてやるだけである程度とりこまれて、効果はえられる。 それから、実際にベクターに入れて発現させる方法ももちろんある。その意味は、多分そのある一定の細胞だけでそれが働く仕組みだけをベクターにいれてやれば国内のベンチャーでも小規模なものならできるわけですね。 ある狙ったものについてそういうRNAを作ることはできる。 |
立花 | ということは、すでに読まれてる癌遺伝子に関しては即どんどんできるってことなんですか? |
井上 | ある遺伝子に対して相補的に働く場合はできる。 ただ、そうじゃなくて、現象としてガンというものがあるとき、決まった遺伝子ではなくて、ある何かのRNAにふりかけると、回復できますよ、っていう薬の作り方はもちろんあると思います。 |
学生 | ガンや統合失調症以外に有望とされてる病気って言うのはあるんですか? |
井上 | 基本的にはどんな遺伝子でも、ある程度遺伝子の機能が分かっているものであるなら、それをたたくようなRNAを作ることは原理的には可能ですから。 |
学生 | あらゆる万能薬というものを作ることも可能なんですか? |
井上 | 可能です。 タンパク質って言うのは構造が複雑で、一時配列、つまり、アミノ酸の並びだけでは分からない。それに比べると、RNAは、試験管の中で作るのは簡単。 |
準備中