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100万人の科学ボランティアを目指して

さて、先ほどの話に戻ります。僕は、サイエンスショー、科学の祭典以外にも、様々なことに挑戦してきました。

生徒が考える実験

僕が高校の教員のとき、一番最初は、授業で予想討論・実験だけをしていました。 ところが、ガリレオ工房で米村さんが新しい実験のしかたを紹介しだすと、ガリレオ工房のメンバーがみんな、新しい実験を持ってくるようになった。例会に参加した大学生の1,2年生でも持ってくるようになったんです。

それだったら高校生でもできるんじゃないかと思って、実験の開発の仕方を紹介しながら、世界で初の実験を年に3個作らせることにしました。

生徒の考えた実験には、色々あります。磁石のつくシャボン玉なんてできそうに思います?シャボン玉の中に火をつけるとか。こういうのはあんまり考えないでしょう。でもそれを生徒が考えて実際にやってみる。なかなかできないんですけどね。

他にも、落下するとき必ず裏返るハンカチとか、一枚の羽が3mmのブーメランでちゃんと戻ってくるやつとか。これは「開発」なんですが、原理を調べるという目的ももちろんあります。例えば二酸化炭素のシャボン膜の透過っていうのは、ある程度知られてたんですけど、どうしてなのか、なかなか分からなかった。使い道も分かっていなかった。ところが調べてみると、二酸化炭素はいったん水に溶けてまた出てくることが分かりました。必ず通過してるというのが調べられたんです。ここから、二酸化炭素を集めることができたら、地球温暖化を防ぐのに貢献できるんではないかというような研究につなげ、結構面白いところまでいきました。

それから、実はこれ以外にも、河合塾で小学生向けのプログラムを作りました。 最初のうちはガリレオ工房のメンバーがやり、今は河合塾がオリジナルプログラムとして使ってます。

関本・有馬塾

そのほか、この前は、関本・有馬塾に関わりました。 江崎玲於奈さんや小柴先生などノーベル賞を受賞した人や、米村でんじろうさん、毎日新聞記者の松村さんなど、いろんな方が講演したんですが、僕らは講演ではなく、自由研究に関わりました。 自分たちでテーマを決めて、テーマにそった研究をするっていうものです。これは開発ではなくて、研究をやらせようと思って取り組みました。4日間ですね。

1日目に、コンピュータをつないでデータを取り込む、データロガーの使い方を紹介しました。温度をテーマに使いこなすようになってから、生徒に自分たちでテーマを決めさせて、そのテーマにふさわしい実験を開発し、データをとって、発表させた。その中の一つのグループで、 一番みんなに評価が高かったものを紹介します。圧縮すると火がつく。これはどれくらいの温度で火がつくだろうか、それはどうしてなのか、というので、このグループは2つの実験を作りました。一つは、ティッシュペーパーが発火する温度を測定するという研究。もうひとつは、その温度にほんとになるのかというので、圧力と温度の関係を調べる装置を作った。でも山の中で何もない中から、一応いろんなことを想定して、僕とガリレオ工房のメンバーが材料一杯もっていったんですよ。それで、これは使えないか、あれは使えないかって色々試して装置を作って、実験をしてデータをとった。青と赤のグラフがかなり相関してるのが分かると思うんですけど、圧力を高くしていくと、温度があがるっていうことですね。 これで、どれくらいまで温度が上がるか予想がついた。

実験のやり方、出てきたデータはどこまで意味があるのか、そういうのを考えるというのをここではやりたかった。ガリレオ工房のメンバーが実際に指導していますが、いずれはこの考える自由研究を学校の授業の中に持ち込みたい。というのは、イギリスは、これを普通の授業でいっつもやってるんですよ。こういうのができるようにならないと、いい大学に入れない。 日本は、理解して問題が解けたらいい大学に入れるっていうシステムなので、それを変えたいなと思って、こういうことをやっています。 ガリレオ工房の中学の先生は実際にこういう授業をやってます。

小学生からわかる 光の世界 ニュートン・アインシュタイン・現代

この8月から9月の始めに、駒場博物館で、光の世界展をやりました。

ここで僕がやろうとしたことは、小学生に最先端の研究を伝えること。小柴先生の光電子増倍管っていうのは、実はアインシュタインの光電効果の実験をそのまんま感度をよくして、それによってニュートリノの性質を調べることができるようになったものなんですね。光は波なのに粒の性質をもってる。その粒の性質を利用して、こういう装置が作られるようになったというのを、小学生に聞いてもらおうと思った。難しいけれど、ちゃんと聞いてくれるんですよ。その隣には、光電子増倍管のちっちゃいやつを置いた。これも、陽電子を使って、癌の位置を調べるのに今使われています。そういう研究を駒場の先生がやってるというのを紹介したんです。

それから、子育てが少し終わりかけたお母さん向けに、”再チャレンジコース”というのをやりました。 科学ボランティアになる方法というのを講習したんですね。8日間朝10時から3時まで全部でなきゃいけないコースなんで、あんまり来ないかなと思ったら、 25人募集して、21人きました。ここでも実験の仕方ではなくて、実験教室を開いて子供に工夫させるにはどういう方法があるか、実験の安全性、材料の購入の仕方、プログラムの組み方とかなどについて紹介しました。

100万人の科学ボランティアを目指して

こういうことを、ずっとやってます。科学の祭典が始まるまでは、日本の社会では、あんまり科学のボランティアっていなかったんですね。それが、この10数年で、すごく広がってきて、数が結構増えています。これを百万人にしたい。もし百万人の人が科学ボランティアをやったら、たぶん今の日本の社会は、下から変わっていくだろうと思います。下からの運動を作りあげていけば、その運動に呼応して、国も対応を変えざるをえない。そういうふうに考えて動いています。 今、国も支援プログラムを作り始めてる。僕は、国がやるのにすぐ協力はするんですが、一方ではかなり批判して問題点を指摘しています。

僕は今までこういうことをやってきて、社会は動くというのを実感しています。例えば科学の祭典。これは実は、今全国90箇所の80何箇所のがほとんど毎年お金なしにやってるんです。中心になってる人は、大変すぎて病気で倒れたり、ほんとに苦労してるんですけど、でもやろうとする。それはですね、意義がわかるんですよ。目の前の子供がほんとに楽しいと思ってくれる。これをやることで日本の社会が変わっていくだろうという見通しがもてる。僕らがやり始めたことが、沢山の人の心に火をつけたと思っています。火をつけることができれば、それは運動として続いていく。

社会化の運動というのは、結構激烈ですよね。でも僕らの運動と比べると、似てるとこもあるんですね。どちらも愛国心なんですよ。僕らも運動してるときに、日本をよくしたいっていう気持ちがあるからやっていける。僕がこの運動を始めたのも、社会を変えよう、いい社会にしようというのでやってる。運動を押し付けたりはしないですが。

それともう一つ重要なのは、ガリレオ工房の例会は、楽しいからやってるということです。ほんっとに楽しいから続けられる。楽しさが武器なんです。楽しいから広がる。これが、いずれは社会を変える。社会を変えるときに、学会とか、ある程度公的な機関がちょっと後押しすると、それはより効果的なんです。社会を変える運動を作ってる人を変えてみたいっていうのが、僕が今思ってることです。


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