1 「イノセンス」より
対談者の瀬名秀明氏(左)・櫻井圭記氏(右)
司会 | 本日は、立花ゼミの特別対談企画にご来場いただき、ありがとうございます。 本日対談されるお二人をご紹介いたします。 現在、東北大学・機械系の特任教授をしていらっしゃいます、作家の瀬名秀明さん。「パラサイト・イヴ」や「デカルトの密室」をはじめとするさまざまな小説をお書きになっておられます。ロボットと人間の境界の問題についての興味が櫻井さんと一致したということで、本日の出演をご快諾いただきました。よろしくお願いいたします。 |
瀬名 | よろしくお願いします。 |
司会 | そして、Production I.Gから、さまざまな作品の脚本を手がけていらっしゃいます、櫻井圭記さん。櫻井さんは、東京大学のご出身で、在学中から「攻殻機動隊」というアニメーション作品の脚本を担当されています。よろしくお願いいたします。 |
櫻井 | よろしくお願いします。 |
司会 | 本日のタイムテーブルですが、前半部といたしまして1:30より、1時間ほどお話いただいた後、休憩を15分ほど挟みまして、後半部を再開いたします。最終的に3:30ごろにお話しを終えていただき、その後質疑応答の時間を設けたいと考えております。また、こちらのディスプレイには(瀬名氏と櫻井氏の間に大きなディスプレイ)、対談の内容を要約したものが、リアルタイムで書記によって打ち込まれていきます。さらにこのディスプレイには、Production I.G様からご提供いただいた映像や画像、われわれで用意いたしました資料なども表示させていく予定でおります。 それでは、対談を始めるにあたって、きっかけになるような映像がございますので、まずそちらを上映させていただきます。 |
映画「イノセンス」より、ハラウェイとトグサ、バトーの会話のシーン。
普及型のガイノイドが暴走する事件が発生、それらのガイノイドは皆最後に自殺(自壊)していた。
ハラウェイ:ロボット達は使い捨てをやめてほしいだけなのよ。
バトー:まさか。
ハラウェイ:人間とロボットは違う、でもその種の信仰は、白が黒でないという意味において、人間は機械ではないというレベルの認識に過ぎない。
(中略)
ハラウェイ:子供は常に人間という規範から外れてきた。つまり確立した自我を持ち自らの意思に従って行動するものを人間と呼ぶならね。では人間の前段階としてカオスの中に生きる子供とはなにものなのか。明らかに人間とは異なるが、人間の形はしている。(略)つまり子育ては、人造人間を作るという古来の夢を、一番手っ取り早く実現する方法だった、そういうことにならないかと言ってるのよ。
トグサ:子供は…人形じゃない!
バトー:人間と機械、生物界と無生物界を区別しなかったデカルトは、五歳の時に死んだ愛娘にそっくりの人形を、フランシーヌと名づけて溺愛した。そんな話もあったな。
司会 | 今の映像に登場していた、ハラウェイというキャラクターには、モデルになっているダナ・ハラウェイという女性がいまして、「サイボーグ・フェミニズム」という、サイボーグと人の境界というテーマに関する本を書いています。また、「イノセンス」の登場人物バトーが話に出していた、フランシーヌという名前は、瀬名さんの著作「デカルトの密室」の中のキャラクターの名前としても出てきているわけですよね。 |
瀬名 | そうですね。 みなさん初めまして、瀬名と申します。ところで、あらかじめお伺いしておきたいのですが、「イノセンス」をご覧になっているかたはどのくらいいらっしゃいますか。(多くの人が手を挙げた)では、「STAND ALONE COMPLEX」をご覧になっている方は。(これにはそこそこ手が挙がる) |
櫻井 | ありがとうございます。 |
瀬名 | 先ほど打ち合わせ室で櫻井さんとこのシーンの話をしていたのですが、トグサとバトーとハラウェイという三人が、どのくらい義体化されているのかということの映像での描き方が、口から出る息で表現されているという話があって、あれによって人間とサイボーグ、ロボットとのちがいがうまく出されていると。トグサはあんまり義体化してなくて、ほとんど生身。 |
櫻井 | ほとんど生身ですね。 |
瀬名 | 首の後ろに、線を接続するためのジャックはあるけれども、ほとんど生身なので、口から出る息がちゃんと白い。だけど、バトーというゴツいやつは、ほとんど義体化されているので、あんまり口から白い息が出ない。ハラウェイさんは、微妙な感じ、という話でしたね。 |
櫻井 | そうですね。これは押井監督が意図的にやっていることだと思いますけれど、トグサは、この検死官の部屋に入ってきたときに、襟を立てている。 |
瀬名 | 寒いわけですよね。 |
櫻井 | 寒いわけですね。で、吐く息が白くなってて。バトーは特に寒そうでもなければ、吐く息が白くもない。ハラウェイという検死官は、たばこを吸っていると。煙がずっとでているので、吐く息が白いのかどうかがわからないというふうになってて、最後のシーンで、目の辺りがカチャっと開くので、かなり義体化率が高い人だったのだということがわかるという。そういう人でもタバコを吸わなきゃいけなかったんだ、ということなんですけどね(笑)。 |
準備中