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長山先生の講演内容
ページ先頭へ↑長山 好夫 核融合科学研究所教授 |
第3章 核融合研究の壁
ページ先頭へ↑3.1 放射障壁が初期の障壁だった
↑ところでスピッツァのステラレータはなぜ失敗したのだろうか?実はステラレータでもねじれた磁力線が磁気面を作り、やはり幾重にも重なった磁気面がプラズマを閉じ込める。しかし、1960年代は技術レベルが低すぎた。ステラレータの真空容器の壁に吸着されたガスがプラズマにたたかれて吹き出す。とくに水として吸着された酸素や、油として吸着した炭素は100万度のプラズマ中では多くの放射スペクトルをもつため、激しく光を放射し、プラズマを冷却する。だから100万度を放射障壁と呼んでいる。この放射障壁が最初の核融合の壁であった。当時の技術では放射冷却を越えるほどプラズマ加熱ができなかったため、ステラレータ計画は失敗したのである。
不純物が壁から吹き出すのはトカマクでも同じである。ところが、トカマクではプラズマ中を流れるトロイダル方向の電流がプラズマを加熱する。酸素や炭素などの不純物はプラズマの電気抵抗を増加させる。電気抵抗が増えれば、電熱線のように電流加熱パワーは増加する。このように電流加熱によって放射障壁100万度を突破すると、酸素や炭素などの放射スペクトルが大幅に減ってしまい、プラズマの温度は一気に1千万度に到達したのである。
実際、核融合科学研究所の大型ヘリカル装置LHDの原理はステラレータと同じである。壁の表面を放電洗浄した後、600kWの高周波加熱によって生成したLHDプラズマの写真を図1(b)に示す。プラズマの温度は千五百万度であり、32分間持続した。現在の技術ではステラレータでも高温プラズマが得られる。
3.2 ディスラプション
↑トカマクプラズマにはプラズマ崩壊現象がある。あとで詳しく述べるが、プラズマ中心部のみが崩壊するソートゥース崩壊と、プラズマ全体が崩壊するディスラプションである。ディスラプションの内、プラズマ電流は維持するが、プラズマの温度を半減させるものをマイナー・ディスラプションと呼ぶ。プラズマを消滅させ、プラズマ電流を遮断するほどの激しいものをメジャー・ディスラプションと呼ぶ。
さて、ディスラプションがなぜいけないのだろうか。
プラズマ電流が遮断すると、磁束が保存するように真空容器や架台、あるいは鉄筋コンクリートの鉄筋など、まわりの金属全てに電流が誘起される。しかもプラズマ電流を立ち上げるときに邪魔にならないように、トーラス方向には絶縁されていることが多い。そこで電流はぐねぐね回って流れる。同一方向の電流同士は引き合い、逆向きなら反発する。したがって、トカマクプラズマのまわりでは色んなところでねじれたり、折れ曲がったりするような力が働く。そこで、トカマクを建設するときはディスラプションによって過大な力がかからないように注意深く設計しなければならない。それでも、繰り返しディスラプションが起きると材料強度が劣化するので、大型トカマクでは設計上ディスラプションの回数を制限する。
ディスラプションが発生すると高温プラズマが真空容器内壁に激しく衝突する。このとき壁を削り取り、壁材の奥に潜んでいた不純物を吐き出して、真空容器中に飛散させる。その結果、実験を中止して、しばらく壁をクリーニングすることになる。それでも実験装置はまだ良い。商用炉でのディスラプションを想像するとぞっとする。壁が損傷していれば、交換するのに、数週間、あるいは数ヶ月も運転が止まる。ひょっとすると、設計限界を超えた力が働くかも知れない。核融合商用炉ではディスラプションは起こってはいけない。
プラズマ崩壊を防止するためには、プラズマ崩壊の物理を解明しなければならない。最初に頻繁に起きる小崩壊であるソートゥース崩壊を十分調べ、次に、マイナー・ディスラプションを調べることで、ディスラプションを理解する。次の章から、軟X線やマイクロ波のイメージング技術を用いて、磁気面を可視化し、プラズマ崩壊の物理解明にチャレンジする話を紹介する。
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