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長山先生の講演内容

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長山 好夫
核融合科学研究所教授

第4章 磁気面を可視化するにはどうするか?

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4.1 同じ磁気面上では電子温度は等しい

 プラズマ崩壊は磁気面の破壊によって起きるので、目には見えない磁気面のふるまいを可視化することでプラズマ崩壊の謎を解明できるかもしれない。電子は光速度の数分の1といった超高速で磁力線をビーズ糸としてビーズ玉のように走り回っているから、1本の磁力線で作られる磁気面上では熱伝導が大変良い。一方、磁気面を横切る熱伝導は悪い。したがって、磁気面上では電子温度が一定である。そこで、プラズマ断面上で電子温度の等高線を作れば磁気面の形を可視化できる。あるいは電子密度の等高線でもよいし、電子温度や電子密度が高くなると強く発光する光の発光強度分布の等高線も、磁気面を代表する。

4.2 磁気面を現す光とは?

 電子温度や電子密度が高くなると強く発光する光とは何か?

 図1(b)に示すように、高温プラズマは可視光線をほとんど放射しない。プラズマの温度の単位はふつうeVを使う。1 keVは1160万度である。可視光線を放射する代表は太陽である。太陽の表面温度6千度は約0.5 eVであり、可視光線の光子エネルギーは1−3 eVである。1千万度から1億度もの高温プラズマから放射されるのは、光子エネルギーが0.1−10 keVの光、すなわち軟X線である。

 一方、プラズマ中では第2章で述べたように電子がサイクロトロン運動(回転運動)をしているので、サイクロトロン周波数の高調波(電子サイクロトロン波)を放射・吸収する。プラズマは電子サイクロトロン波をほぼ100%吸収する。だからといって電子サイクロトロン波を放射しないわけではない。黒い鉄でも焼けば赤く光る。物理学的には100%吸収体では放射温度と電子温度が等しいと言う。

 放射された電子サイクロトロン波を、英語(Electron Cyclotron Emission)の頭文字をとってECEというが、ECEの放射強度は放射温度すなわち電子温度に比例する。トカマクではサイクロトロン周波数は50−150 GHzであるので、ECEはマイクロ波である。また、サイクロトロン周波数は磁場に比例するが、磁場は場所によって異なるため、周波数から放射の場所が特定できる。すなわち、ECEは特定の位置の電子温度を表す。

 したがって、磁気面を可視化するには、ECEや軟X線を測定し、データ処理して、プラズマ断面像を再構成することになる。

4.3 軟X線CTとECE断面像の再構成

 プラズマの軟X線断面像は病院で使うX線CTと同じ原理で求められる。検出器が受光する軟X線というのは視線上のX線発光を足し合わせたものであるから、あらゆる方向からデータを用いると、元の像を再生できるというのが、CT(コンピュータ・トモグラフィー)の原理である。しかし、トカマクの計測ポートは限られているので、あらゆる方向のデータは得られない。数学的には欠損データの像再生とよばれる問題であり、ふつうはまともな像再生ができない。しかし、プラズマはいろんな物理的条件があるので、それを利用して像再生を行う。[4]

 図6にTFTRでの(a) ECE断面像計測と(b) 軟X線トモグラフィー計測の模式図を紹介する。TFTRでは中心一列しかECEを測定していないため、断面像を求めるに当たって、プラズマが、ポロイダル方向に回転しているとした。実際にはプラズマはトロイダル方向に回転しているのだが、プラズマ崩壊を招く磁気面構造がヘリカル対称性を持つため、ポロイダル方向に回転しているように見えるのである。例えば、理容店の看板は赤白が縞になったヘリカル模様である。これは回転しているだけなのだが、縞模様があたかも上の方に動いているかのように見える。それと同じことである。


図6 TFTRでの(a)ECE断面像計測と(b)軟X線トモグラフィー計測の模式図。回転するプラズマから見ると、検出器がまわっているように見える。

 TFTRでは上と横の二方向しか軟X線検出器アレイが設けられていないので、そのままだと誤った断面像再生のおそれがある。実際、二方向軟X線検出器アレイを用いて得られたJETでのソートゥース崩壊の軟X線断面像には、三日月型のホットスポットが現れた。これはJET の指導的理論家の理論モデルと一致したため、1986年に大々的に発表された。しかし、三日月型のホットスポットは二方向軟X線検出器アレイが作り出す典型的な偽画像であったのだ。

 そこで、TFTRでの軟X線像再生では、ECE像再生と同様にプラズマの剛体回転を用いた。回転するプラズマから見ると、検出器がまわっているように見える。時間的に変化する測定データを用いることで、多くの検出器アレイがあるかのように扱えるわけである。ただし、長い時間のデータを用いるとそれだけ時間分解能が悪くなる。図10の軟X線断面像を求めるのに、60度回転する間のデータを利用した。1回転は200マイクロ秒(1マイクロ秒は百万分の1秒)であったから、60度回転は、33マイクロ秒に相当する。また、図10のECE断面像を求めるのに半回転のデータを利用したので、時間分解能は100マイクロ秒である。このとき崩壊時間が500マイクロ秒であったので、時間分解能は十分である。



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