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長山先生の講演内容
ページ先頭へ↑長山 好夫 核融合科学研究所教授 |
第5章 イメージングによるソートゥース崩壊の解明
ページ先頭へ↑5.1 ソートゥース崩壊とは
↑図7に、プラズマ中心部の崩壊が起きているときの電子温度の時間変化を示す。ノコギリの歯(sawtooth)のような波形であるので、この波形をソートゥース(sawtooth)振動と呼び、崩壊現象の方をソートゥース崩壊と呼ぶ。これは1974年にC型ステラレータを改造したトカマクで、シュウィック・フォン・ゴーラー(Schwick von Goeler)が半導体検出器で測定した軟X線信号上に見いだした。[5]
5.2 磁気再結合モデル
↑ソートゥース崩壊発見の翌1975年、ソ連の科学者ボリス・カドムツェフ(Boris Kadomtsev)は、天文学でよく使われる磁気再結合の概念を用いて、ソートゥース崩壊を説明した。[6]
はじめに磁気再結合を説明する。図8のように2つの磁石を向かい合わせた場合を考える。N極とS極が向かい合うときは引き合うのに、S極同士が向かい合うときは反発する。磁力線に注意すると、引き合う場合は磁力線が結合する。しかし反発するときは磁力線がつながらない。特に接触部での磁力線の方向を見てみると、引き合う時は横方向の成分が逆向きで、反発する時は横方向の成分が同じ向きである。 ソートゥース崩壊についてカドムツェフは次のように考えた。
周回するたびに微妙にずれるような磁力線上では、不安定性が発生しようとしても位相がずれていくので成長できない。成長する不安定性は、周回すると元に戻る磁力線上に存在せざるを得ない。また、q=1磁気面上では様々な不安定性が何かしら発生するものである。だから、ソートゥース崩壊を引き起こすような不安定性はq=1磁気面のまわりでおき、(m, n)=(1, 1)ヘリカル対称に決まっている。そこで(1, 1)ヘリカル座標系を用いて磁気面を表示する。
(m, n)ヘリカル座標系とは、図9(c)の立体表示で用いる極座標系(r, θ, φ)の代わりに、(r, mθ+nφ)としたものである。mとはポロイダル方向の周期数、nとはトロイダル方向の周期数である。 (m, n)ヘリカル構造は、1/n周トロイダル方向に進むと、ポロイダル方向には1/m周ねじれる構造である。磁力線のねじれの度合いを表すパラメータとして、伝統的にqを用いる。(m, n)ヘリカル対称な磁気面であれば、q=m/nである。
もっと厳密には、
となる。
ポロイダル磁場Bpが大きいほど磁力線のねじれは大きいので、qが小さいほどねじれていることになる。トカマクではプラズマ中心で多く電流が流れるから、中心ほどBpが大きく、qが小さい。1周すると元に戻る磁力線はq=1であり、それが属する磁気面はq=1磁気面となる。
極座標系では図9(c)のようにトロイダル角φをつねに意識して、立体的に表示しなければならないが、ヘリカル座標系では、図9(a)のように平面表示でよい。また、ホットスポットと外側磁気面の接触部は実際には図9(c)のようにねじれた線であるのに対し、ヘリカル座標系では点で表現できる。この接触部での磁力線はヘリカル座標系ではX字状なので、伝統的に、X点と呼ぶ。
図9(a)に示すように、q=1磁気面を境に内側と外側の磁力線とは逆向きである。q=1磁気面で不安定性が成長し、q=1磁気面より内側の磁力線を返信させた場合、q=1磁気面上の接触部で内側外側の磁力線は再結合する。再結合した磁力線上は電子が高速で移動するので、ただちに等温になる。そこで三日月型の磁気島ができ、磁気島が丸いホットスポットを押し出す。ホットスポットの磁気面も外側の磁気面と接触し、磁気再結合を起こし、磁気島が大きくなる。ということを繰り返して、ついにはq=1磁気面の内側の熱が全て外側に移動し、図9(b)のように中心部の電子温度分布は平坦化する。また、磁力線の方向は全て外側と同じになる、すなわち、qが1より大きくなる。
5.3 ECEと軟X線のプラズマ断面像
↑計測したソートゥース崩壊中のTFTRプラズマ断面像を図10に示す。図10 (a)が ECE断面像である。図10 (b) は軟X線断面像である。ECE断面像も軟X線断面像も、三日月型の磁気島と丸いホットスポットが見られる。たしかに、カドムツェフモデルと同じである。
ECE断面像と軟X線断面像を比較すると、違いも見られる。ホットスポットの大きさは軟X線トモグラフィー像の方が大きいし、強度も大きい。最後のフレームでは、軟X線トモグラフィー像にはホットスポットが存在するのに、ECE断面像では消えている。
分光器で軟X線スペクトルを測定すると、鉄、ニッケル、クロムのKα線が非常に強く、この軟X線断面像はこれらの重金属イオンからの放射を表している。トカマクでは重金属イオンは中心に集まりやすい上、重金属イオンの放射強度は電子温度が高いと急速に強くなる。そのため、ECEより軟X線強度が強いのである。
また、プラズマの軟X線トモグラフィーは医療用のCTと異なり、検出器の置き場所も限られているため、空間分解能が悪い。そのため、ホットスポットが大きいように見える。重金属イオンは電子の10万倍の質量なので同じ温度であっても速度が300倍異なる。最後のフレームの軟X線像とECE像の違いは、イオンと電子の速度差である。
このように軟X線像とECE像はそれぞれ異なる情報を持つので、両方の画像を求めることは重要である。鉄の棒の片方を加熱するともう片方も熱くなるように、粒子が動かなくても熱伝導はおこる。ECE像が示すように電子温度が変化したからと言って粒子が動いたことにはならない。熱伝導のメカニズムは磁気再結合以外にもたくさんある。しかし、軟X線像が示すように、重金属イオンがホットスポットと外側で混じり合うとなると、粒子が動くしかない。したがって、この断面像は磁気再結合の強力な証拠である。[7]
5.4 ソートゥース・パラドックス
↑カドムツェフのモデルを実験的に検証する上で重要なのは、(1) 三日月型の磁気島と丸いホットスポットという断面像が正しいか? (2) ソートゥース崩壊後、qが1より大きくなるか?の2点である。軟X線やECEのプラズマ断面像は、確かに、(1) 三日月型の磁気島と丸いホットスポットという断面像が得られる。しかし、実はプラズマ内部の磁場計測をすると(2) は成り立たないのである。実験的には、ソートゥース崩壊後、qが余り変化せず、依然としてqは1以下である。この矛盾は、ソートゥース・パラドックスとよばれ、長い間謎であった。[8]
5.5 局所再結合
↑それでは、ソートゥース・パラドックスの解明に挑戦しよう。qが変化しないということは、磁束が変化しないのと等価である。磁気面とは、電磁気学によれば、ポロイダル磁束の等高線のことである。電子は磁気面を光速度の数分の一という超高速で走り回っているため、電子温度の等高線すなわちECE断面像の等高線は磁気面を表しているはずである。
そこで、図11にホットスポットがトーラスの中心軸に近い方(トーラス内側)にある場合と遠い方(トーラス外側)にある場合とを比較する。ホットスポットがトーラス内側にあるときは引っ込んでいるのに対し、トーラス外側にあるときは出っ張っている。あきらかに非対称である。これはむしろ磁気再結合がトーラス外側だけで局所的に起こっていると考える方が自然である。[9, 10]
局所的磁気再結合の模式図を図12に示す。ホットスポットは、トーラス内側にあるときは浮いているが、トーラス外側では外側の磁気面と接触する。したがって再結合部はトーラス外側に局在する。再結合部ではホットスポット上の磁力線が外側の磁気面上の磁力線と結合する。すると、磁力線に沿って粒子(イオンや電子)電子が高速で運動するため、ホットスポットの磁気面上の粒子と外側の磁気面の粒子が混じり合い、温度も密度も同じになる。また、局所的再結合では磁束の変化は少ないので、q<1のままでよい。したがって、局所再結合モデルによってソートゥース・パラドックスは解ける。
しかし、理論モデルには実験的検証が必要である。とくに、プラズマ回転を用いている点には批判が多い。京都大学理学部の大学院生山口聡一朗はWT-3トカマクに多くの軟X線検出器アレイとECE計測アレイを並べて、プラズマ回転を用いることなくソートゥース崩壊でのCT像を測定し、局所再結合モデルを支持する結果を得た。[11]
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