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長山先生の講演内容

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長山 好夫
核融合科学研究所教授

第7章 高ベータ・ディスラプションの解明

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7.1 高ベータ・ディスラプションとは

 ディスラプションの原因として、(1) プラズマ電流が過大な場合(高電流・ディスラプション)、(2) 電子密度が過大な場合(高密度・ディスラプション)、(3) プラズマ圧力が過大な場合(高ベータ・ディスラプション)、がある。

 どんな小さなトカマクでも高電流・ディスラプションと高密度・ディスラプションは発生する。これらのディスラプション直前には真空容器内の磁気センサー信号に特有の波形が現れる。そこでニューラルネットワークなどの高速信号処理技術を応用して、特有の波形を検出し、かつプラズマを制御することで、これらのディスラプションを防止することも研究されている。実は、スーパーショットやITBなどの高性能プラズマ運転では、高電流・ディスラプションや高密度・ディスラプションはほとんど問題とならない。なぜなら高性能プラズマは低電流運転かつ低密度プラズマを出発点とするため、これらのディスラプションが起きるほど電流も密度も高くならないためである。

 最後の、高ベータ・ディスラプションは近年の高性能トカマクプラズマで現れるようになったため、あまりなじみがないようである。ベータとは専門用語で、磁場圧力で規格化したプラズマ圧力のことである。高ベータ・ディスラプションは、磁場に比してプラズマ圧力が過大となるとき発生するディスラプションのことである。言い換えれば、閉じ込め能力を超えてプラズマが過熱したときおこる崩壊現象である。

 高ベータ・ディスラプションは圧力駆動型の不安定性が起こすと考えられる。圧力駆動型の中で最も危険なのがバルーニング・モードであり、これは核融合プラズマ物理学研究の初期から理論的に予想されていた。

 プリンストン大学でC型ステラレータを建設した頃、高加熱のプラズマでは何が起きるかが、理論的に研究された。ラッセル・カールスラッド(Russel Kulsrud)とブルーノ・コッピ(Bruno Coppi)は、それぞれ独立に、1965年のIAEAプラズマ・核融合国際会議で、圧力が高くなるとバルーニング・モード(Ballooning mode)という不安定性が発生することを発表した。彼らはプラズマ物理で唯一のノーベル賞学者スウェーデンのアルヴェン(Hannes Olof Goesta Alfven)が作ったMHD方程式を駆使してこの結果を得た。MHDとは電磁流体力学のことであるが、英語名が「Magneto-Hydro-Dynamics」と長たらしいのでふつうMHDと呼ぶ。

 「MHDはプラズマ物理では珍しく理論と実験が一致する。」とプラズマ物理学者達は自嘲しながらも、MHD方程式への信頼は厚い。しかし、MHD理論の初期の大成果であるはずのバルーニング・モードだけは、理論的研究論文が厚く積み重なるだけで、四半世紀たっても実験的に観測されなかった。

7.2 バルーニング・モードとは何か?

 まず、図15を用いてバルーニング・モードについて説明しよう。[14]


図15 (a)軽いプラズマの上に重いプラズマが乗った時、起こること。(b)重力があるときのイオンの運動。(c)トーラスプラズマでのバルーニング・モードの原理。

 プラズマを閉じ込めるとは、「真空の中にプラズマを置く」ことである。真空はプラズマより軽いので、これは油の上に水を置くようなものである。油の上に水を乗せたとき何が起きるか想像してほしい。重い水が軽い油の上にいつまでも乗っていられるわけもないのでひっくり返る。そのとき油の一部が細長く上昇し、水も一部が細長く下降する。ついには水が下、油が上になる。

 ではプラズマではどうか?図15 (a) に示すように、紙面と垂直に磁場がある場合、軽い真空の上に重いプラズマが乗った時どうなるか?図15 (b) のようにイオンは重力で加速されるから下の回転半径が大きく、上向きは減速されるので上での回転半径が小さい。その結果左に流れる。電子は逆向きに回転するので右に流れる。何かの拍子に真空との境界面がふくらんだとすると、イオンの流れは左の境界面にぶつかってイオンが溜まり、右の境界面では電子がぶつかって電子が溜まる。すると、左から右向きに電場ができる。MHD理論によると、磁場中のプラズマには電場と磁場の双方に直角な方向に力(E×B力)がかかる。その結果、境界面のふくらみはどんどん成長し、結局、重いプラズマは下に、軽いプラズマは上に行く。

 さて、トーラスプラズマではどうだろうか?図2で示したように、イオンと電子は上下に分かれるように流れる。いま、電子が上に、イオンが下に運動するような磁場の向きとする。中心軸側(左側)では、ふくらみの電場はやはり中心軸から離れる方向(左方向)にE×B力が働くが、そのむきはプラズマを向いているので、ふくらみは押し戻される。しかし、中心軸から離れた外側の表面(右側)がふくらむと、ふくらみに溜まったイオンと電子が作る電場とトロイダル磁場の相互作用で外側方向へE×B力が働き、ますます外側にふくらみが進行する。

 しかし、図3で示したようにトカマクでは磁力線をねじって荷電分離をキャンセルしている。ふくらみが作る電場もキャンセルされるため、ふつうの圧力では、このふくらみは成長しない。しかし、磁力線を局所的に曲げてしまうほど、プラズマ圧力が高くなると話は別である。プラズマの境界面に磁力線にそった流れではキャンセルできないほどの風船ができたとしよう。風船の中で、上下にイオンと電子が溜まり、風船はE×B力でどんどん膨らんでいく。風船を英語でバルーンとよぶので、このようなふくらみの成長をバルーニング・モードとよぶ。

7.3 高ベータ・マイナー・ディスラプションのプラズマ断面像

 高ベータ・ディスラプションは大型トカマクのスーパーショットやITBなどの高性能プラズマで起こるが、前兆現象なしにいきなり発生するので、因果関係がよく分からない。だいたい、ディスラプションが起きたら困るので、起きないように運転する。したがって、ディスラプションのデータは大変限られている。そのため高ベータ・ディスラプションの解明は遅れていた。しかし、TFTRではプラズマ電流を減らした高ベータ実験において、高ベータ型のマイナー・ディスラプションが頻繁に発生し、実験データが豊富になった。また、加熱が大きすぎると、メジャー・ディスラプションが発生するため、マイナー・ディスラプションとメジャー・ディスラプションは同じ物理的メカニズムで発生し、激しいものがメジャー・ディスラプションであることが分かり、研究が進展した。[15]

 図16に高ベータ型のマイナー・ディスラプションが起きた瞬間の、(a) 横から見た軟X線分布、(b) 赤道面での電子温度揺動分布、(c) 赤道面での電子温度分布の時間変化を等高線で表示する。トカマクはトロイダル方向に剛体回転しているため、トロイダル角は時間に比例する。つまり赤道面での電子温度や電子温度揺動の等高線は、赤道面でのプラズマの断面像である。図16(b) に示す、電子温度揺動分布には、トーラス外側、R=2.9 m付近に風船が見える。プラズマの中心(R=2.75 m)について対称のトーラス内側、R=2.6 m付近には風船は見えない。さらに、軟X線断面像をプラズマの剛体回転を仮定して求めると、図16(d) のようになる。あきらかにトーラス外側に風船がある。トーラス外側に現れる風船がバルーニング・モードの特徴であったので、これが四半世紀間観測されなかった幻のバルーニング・モードに違いない。


図16 高ベータ・マイナー・ディスラプション時に観測されたバルーニング・モード。(a)横から見た軟X線分布の時間変化。(b)赤道面での電子温度揺動分布の時間変化。(c)赤道面での電子温度分布の時間変化。(d)軟X線断面像。(Y. Nagayama, et al.: "Investigation of ballooning modes in high poloidal beta plasmas in the Tokamak Fusion Test Reactor", Physics of Fluids B 5, 2571 (1993).より転載)

 このように、ECEと軟X線のイメージング計測により、高ベータ・マイナー・ディスラプションにおいて、バルーニング・モードが観測された。計算機シミュレ−ションでは、バルーニング・モードが磁力線の局所再結合を引き起こし、圧力差が無くなるまでプラズマ内部の熱を吐き出し続ける。この例のようなマイナー・ディスラプションでは失われる熱が少なく、中心部分が残るので、プラズマ全体の破壊は免れる。しかし、激しい場合には、プラズマのかなりの熱と粒子が失われる。プラズマから失われた粒子が激しく真空容器の壁をたたいて不純物をたたき出し、あるいは壁の一部を削り取り、それらがプラズマに流入する。電子温度の急降下と不純物の流入のためプラズマの電気抵抗が急上昇し、その結果、プラズマ電流を維持できなくなって、メジャー・ディスラプションに至る。



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