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長山先生の講演内容
ページ先頭へ↑長山 好夫 核融合科学研究所教授 |
第8章 高ベータ・ディスラプションをいかに防ぐか
ページ先頭へ↑8.1 バルーニング・モードの第二安定化
↑軟X線とECEのイメージング計測の結果、高ベータ・ディスラプションはバルーニング・モードによって引き起こされることが分かった。したがって、高ベータ・ディスラプションを防止するためには、バルーニング・モードの安定化を図らなければならない。そのためには、風船が膨らむトーラス外側と風船が縮むトーラス内側を短い磁力線でつないで、バルーニング・モードが発生するプラズマ圧力限界を高くする。
プラズマには、プラズマ圧力と磁場の圧力の和を保存しようとする性質があるので、プラズマ圧力が高くなると磁場圧力が下がる。ついにはプラズマ中の磁場が周囲より低くなる。(これを磁気井戸という。)すると、トーラス外側でも風船が縮む方向に力が働くようになるので、バルーニング・モードはおきない。すると、「圧力が高くなるにつれて磁気井戸が深くなるのでより安定化する」というマジックのような現象が起きる。これをバルーニング・モードの第二安定化と言う。
トーラス外側とトーラス内側をつなぐ磁力線を短くするには、トーラス外側のトロイダル磁場を弱くする。しかしトカマクでは、一番外側の磁気面上の磁力線がポロイダル方向に1周するとき、トロイダル方向に2周以上しなければ、電流駆動型のディスラプションが必ず起きる。したがって、トーラス内側では何度もトロイダル方向に周回するような配位が良い。そのためには、トーラス内側の磁場がトーラス外側の磁場が何倍も高いと良い。トロイダル磁場はトーラスの大半径の逆数であるから、トーラスプラズマの主半径をR、副半径をaの比(アスペクト比)、R/a、が小さければ良いことになる。
なお、アスペクト比が2より小さなトカマクでは、自然に縦方向にプラズマが伸びるため、外形が球状になる。そこで球状トカマクとよぶ。また、英語の名称 "Spherical Tokamak" の頭文字をとって、STと呼ばれることが多い。図17にトカマクとSTの磁気面と磁力線を示す。STではトーラス外側とトーラス内側をつなぐ磁力線が短く、トーラス内側では磁力線が何周もしている。[16]
理論的に、トカマクとSTのバルーニング・モードの安定領域を調べた例をそれぞれ図18(a)と(b)に示す。確かにアスペクト比の大きなトカマクでは第一安定化領域と第二安定化領域をつなぐ道の幅が狭いが、アスペクト比の小さなSTでは道の幅が広い。実験的にも、アメリカのNSTXやイギリスのSTART実験では、ベータ40%もの高ベータを達成している。東大工学部・小野靖教授は小型ST、TS-3実験で、パルス的ながら第二安定化プラズマを生成し、存在を実証した。
8.2 球状トカマク物語
↑ST研究物語は興味深いので、個人的に聞いた範囲で紹介する。
球状トカマクは1970年代東北大学工学部・長尾重夫教授が手がけていたが、しばらく忘れられていた。一方、1980年代初頭、国際トカマク炉(INTOR)プロジェクトに参加していた物理学者達は、「このままではトカマクは商用炉にならない」と考えた。アメリカ・テネシー州オークリッジ国立研究所のマーチン・ペン(Martin Peng)もその一人である。とくに問題なのは建設費が高すぎることである。例えば、ITERのコストの三分の1は超電導磁石のコストである。しかも磁場が強いと支持構造物も頑丈に作らなければならない。磁場のコストは磁場の自乗に比例する。
そこで、同じ温度・密度でいかに磁場を下げられるか、すなわち「いかにベータを上げられるか」がコスト削減の要点である。マーチン・ペンは理論的ベータ限界と実験的閉じ込め比例則を元に、STを思いついた。5年以上無視されていたが、STの優秀性を説いて回った。
一方、イギリスのカラム研究所は、かつて、核融合研究のメッカとして尊敬され、敷地内にヨーロッパ共同核融合プロジェクトJETを建設したほどだった。しかし、イギリスの国家財政建て直しのため、カラム研究所本体の予算が大幅削減され、核融合部門が存亡の危機に瀕した。核融合部長デレク・ロビンソン(Derek Robinson)は起死回生の手段として、ST実験を行うことにした。しかし、実験部門の人員(給料)はさけない。そこでガレージ作業が趣味の理論家アラン・サイクス(Alan Sykes)に小型STの建設を依頼した。アラン・サイクスは技術部門のトム・トッド(Tom Todd)に助けを求めた。無給の労働であるから、「アラン・サイクスはパブでビールをおごってトム・トッドを働かせた」との伝説がある。
彼らは研究所中を探し回って不要物品(粗大ゴミ)を集め、大学院生なども参加し、STARTと名付けた最初のSTを建設した。その後、改良を重ね、トカマクの高ベータ記録を塗り替えて注目され始めた。そこでマーチン・ペンが、オークリッジ国立研究所から1970年代に世界最初のNBI加熱トカマクに使われたというビンテージ物の中性粒子ビーム入射装置(NBI)を貸し出した。STARTプラズマをNBI加熱した結果、ベータ40%という、普通のトカマクの10倍ものベータを得た。
STARTの成功でカラム研究所は生き返った。それまでのトカマク実験を中止し、MASTと呼ばれる中型STを建設した。MASTとはメガアンペア級STのことで、プラズマ電流1MA以上を意味している。一方、プリンストン大学でも小野雅之とマーチン・ペンが中心となり、メガアンペア級のNSTXの実験を始めた。これらは1千万度以上のプラズマでベータ40%を得ている。
現在、日本では超伝導ST炉の検討が進められている。トカマクの三大弱点は、ディスラプション、中性子、定常運転である。核融合出力の80%は中性子が担い、それをブランケットで熱に変換する。百万キロワットの発電炉では中性子出力は2千万キロワットである。一方、ブランケット材料の限界は平米当たり5千キロワットであり、約2年で交換が必要となる。しかし、トカマクではブランケットの交換に数年かかる。一方、STでは外側に大きな開口部がとれるのでブランケットを短時間に交換できる。また、STの高ベータ・プラズマは自発的に大きなトロイダル電流を作るので、定常運転も可能である。要するにSTはトカマクの三大弱点を全てカバーできるかも知れない。[20]
もちろん、これらは実験的に確かめなければならない。プリンストン大学では、大型ST として図19に示すNSST計画をアメリカ政府に提案している。
8.3 ディスラプションが起こらないLHD
↑トカマクと違ってディスラプションが起こらないことがほぼ確実な配位が、LHD配位である。また、LHDは定常運転可能であり、既に1時間運転に成功している。
LHDとは、核融合科学研究所が現在実験している、主半径3.6m、平均副半径0.6m、中心磁場約3Tの大型ヘリカル装置である。図20に概念図と真空容器内部の写真を示す。LHDでは1対の超伝導ヘリカルコイルをトロイダル方向に10回ねじってヘリカル磁場を作る。図18(c)に示すように、LHD配位はバルーニング・モードの第二安定化領域にある。また、LHDの磁気面は外部ヘリカルコイルによって作られているため、プラズマ圧力が高くなると磁気面が乱れてプラズマ閉じ込めを劣化させると考えられている。すると、いくら加熱しても、プラズマ圧力が飽和する。要するに、LHD配位では高ベータ・ディスラプションが起きない。 現在、LHDではベータ4.5%を達成したが、不安定性が起きないどころか磁気揺動がむしろ減少する。理論的には磁気面の乱れでベータ5 %で飽和することになっているが、大変興味深いことに、磁気面の乱れの徴候すら見えない。したがって、加熱入力さえあればまだまだベータ値は上りそうである。
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