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永山先生の講演内容
ページ先頭へ↑永山 國昭 生理学研究所教授 |
位相差電顕のしくみ
蛋白質分子(フェリチン)を観察したときの通常法とゼルニケ位相差法の比較
では、位相差電顕の仕組みはどうなっているのでしょうか。
位相差電子顕微鏡は、普通の電子顕微鏡にただ1ヶ所だけ改良を加えると実現します。対物レンズの後ろに1枚の位相板が組み込むのです。位相板は20nm〜60nm厚の非晶質炭素膜で、これを対物レンズの後ろ側の、通常、絞りの入っている所に挿入します。300kV電顕の位相板では、たとえばゼルニケ法の場合、30nmぐらいの厚さで、真ん中に非常に小さな穴が開いているという、実にたわいもないものです。しかしこの位相板を帯電せず働かせることに、ほとんど50年近い歳月(図3中の1958年金谷報告以来)がかかったのです(英文文献(1))。
図5
位相差顕微鏡には、ゼルニケ位相差法(図5)と微分干渉法(図6)の2つのタイプがあります。電子顕微鏡でもこの2つが実現しました。ただし電顕の微分干渉法では、ゼルニケ位相板の厚さの2倍の炭素幕を、絞り半分だけを覆うようにして挿入します(半円位相板)。これをわたしたちはヒルベルト微分法と名付けました(英文文献(2)、(3))。
通常法では、絞りは電子線の周波数カットをするだけですが、その絞りの上に1枚の炭素膜を乗せるだけの操作で、同じ生物試料(フェリチンという蛋白質)でも、図5の右の画像のように、コントラストが劇的に変わってきます。
コントラストが高くなる理屈については、ドイツのシェルツァーにより1949年に確立されたコントラスト伝達関数理論があります。それについては述べませんが、一つ言えることは、通常法ではコントラストに寄与する低周波成分をゼロにしてしまう変調があり、何も見えなくなるということです。逆に言うと、低周波成分を正しく回復しているという意味で、ゼルニケ位相差法は通常法に比べて情報量が多く、コントラストも高くなっているのです。
空間フィルタリングによる微分干渉法≡ヒルベルト微分法
図6では通常法とヒルベルト微分法で撮影したシアノバクテリアの画像を比較しています(図4の(a)、(c)のデータと同じ)。
図6
電子染色をしていませんので、通常法ではコントラストがあまり高くありませんが、位相板を入れて位相差法に変えることによって、コントラストが非常に高くなります。一件、立体的に見えますが、これは3次元像を表しているのではなく、位相の強弱の微分値が表現されているのです。こうした見え方は、光学顕微鏡の微分干渉法(ノマルスキー法)と完全に同じです。
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