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永山先生の講演内容

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永山 國昭
生理学研究所教授

位相差電顕の応用

電顕-光顕ハイブリッド法によるナノバイオロジー

 生物は階層的に組みあがっています。その階層を分子から個体まで一貫したいイメージングでつなげたいと誰しも思うと思います。しかし図1に示すように分子を観る手法と細胞・組織を観る手法にはギャップがあります。そのためにまず無染色での観察法と生物試料を氷に閉じ込める方法が必要となりました。図4、図8に示すようにこれは完成しました。残された問題は働き者の蛋白質を同定することです。これは免疫染色法のような蛋白質特異的ラベル法で解決します。


図10

 各種の顕微鏡を連携し、できるだけ有機的に分子から個体までをつなげたいというときに、どうやったら同一試料を光顕と電顕で同時に観察できるかという問題が残ります。これの解答が図10に示されています。電顕-光顕ハイブリッド法です。図11にその一例を示します。

 私たちがやりたいのは、同じサンプルを光顕と電顕で観るということです。そのためには、2〜3nmレベルの非常に小さいラベル物質で光顕でも電顕でも見えるものが必要です。光顕ではラベル物質としては有機物の蛍光剤が主流で、たとえば蛍光顕微鏡では種々の蛍光物質(化学合成物質や緑色蛍光蛋白質など)が重宝されていますが、電顕用のラベル剤とはなりません。我々が欲しいものは、蛍光顕微鏡と電子顕微鏡にともにラベルとして働き、しかも壊れにくいものです。つまり、丈夫でかつ光顕、電顕にコントラストを示すラベル剤です。


図11

 最近注目されている無機物質の蛍光剤、Q dotがその答です。実際には、生きている細胞の中にQ dotを取り込ませて、その蛍光を蛍光顕微鏡で見ます(図11左)。Q dotは蛍光色を変えられますので、異なる蛋白質を異なる色でラベルできるので特に注目されています。なお良いことは、電子顕微鏡的にも強いコントラストを示すことで、それに対応する部分が電子顕微鏡で見えます(図11右)。それも位相差法の場合、無染色でもみえますので、適当な抗体をQ dotにつければ、これらはタンパク質の同定に使えます。全体としての動きを蛍光顕微鏡で見て、その試料の特定イベントをもっと高い分解能でクローズアップしたいとき、位相差電顕で見るという連携を図りたいと思っています。この方法が完成すれば分子から個体まで生物の"生きた"姿がとらえられるはずです。

オルガネラ・細胞の構造生物学

 図12には、培養細胞のヒルベルト微分像を示しました。


図12

 (a)はHEK293という細胞を瞬間凍結し、凍らせた試料です。それをヘリウム温度に冷やした試料台にのせ観察した電子顕微鏡像です。ミトコンドリア様(図12(a)矢印と拡大図(b)−I)のものが見えますが、細胞内では上にも下にもたくさんの他の物質がありますので、ディテールを見ようとすると大変です。そこで図12(b)−IIのように、ミトコンドリアの部分を細胞の中から抽出して観察しました。ヒルベルト微分法は、通常法像では見えない、いろいろな構造体が見えてきます。ミトコンドリアの場合、通常のラメラ構造や今まで見えなかった顆粒像が見えました。ゆくゆくは細胞内のDNAやさらに生きた細胞のタンパク質を同定したいと思っています。

 そのためにはまだ2つの手法開発が必要です。炭素膜を位相板として用いる現行法よりもっとコントラスト向上の図れる無損失位相差電子顕微鏡の開発。そしてオルガネラ・細胞の立体像を再構成するトモグラフィー法の開発です。これら手法がすでに述べた電顕-光顕ハイブリッド法と合体するとき、私たちは生物のナノ世界を蛋白分子の言葉で理解することになるでしょう。



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